ワクチン接種や病原体感染・排除後に形成されるメモリーT細胞は免疫記憶の成立に中心的な役割を果たすが、その形成機構は未だ明らかにされていない。我々はメモリーCD8 T細胞の分化機構を解明する目的で、CD8 T細胞の活性化・増殖に伴い発現する「終末分化」マーカーとして知られるKLRG1(Killer cell Lectin-like Receptor G1)遺伝子に注目し、KLRG1を発現した細胞を遺伝学的に標識・運命追跡できる実験系を確立した。さらに、リステリア細菌感染モデルにおいて細胞運命追跡法を用いることにより、KLRG1発現を消失した新たなメモリーCD8 T細胞集団(exKLRG1細胞)を同定した。exKLRG1細胞はリステリア細菌感染後5日目頃より出現し、10日目頃にピークを示し、長期間生存可能な能力を有するセントラルメモリー、エフェクターメモリー、及び、組織潜在型メモリーCD8 T細胞へと分化できることが明らかとなった。一方で、KLRG1を発現し続けている細胞のほとんどはエフェクターメモリー細胞であり、組織潜在型メモリーCD8 T細胞集団内には確認できなかった。エフェクターCD8 T細胞の解析により、exKLRG1はKLRG1を発現し続けている細胞やKLRG1を一度も発現していない細胞と比べ、T-bet、Blimp1や、Ki67といったエフェクターT細胞の分化や増殖に関連した分子を中程度に発現していた。この結果と一致して、メモリーexKLRG1細胞は高い細胞障害活性能を維持していることが分かった。 以上の結果、KLRG1+ CD8 T細胞は可塑性を有し、エフェクターCD8T細胞の分化段階で抗原や炎症性サイトカインに中程度に反応した細胞がexKLRG1細胞となり、全てのメモリーCD8 T細胞サブセットへと分化することで免疫記憶の成立に関与していることが示唆された。
|