総務省消防庁の院外心停止全国前向き全例登録から2005年-2014年の10年間のデータを解析した。75歳以上の高齢者の院外心停止病院搬送数は経年的に著しい増加を認めた。神経学的転帰良好を伴った生存率は年齢の上昇に伴い低下した。神経学的転帰良好を伴った生存率は65-74歳および75-89歳では経年的に改善傾向にあったが、90歳以上では改善を認めなかった。神経学的転帰良好に関連する因子として、初期波形が除細動適応であること、目撃があること、より年齢が若いこと等が同定された。 院外心停止蘇生後の神経学的転帰良好の予測率を救急現場において簡易に参照できる『院外心停止後神経学的転帰良好予測率層別化モデル』を作成した。2011年-2013年を開発群、2014年を検証群とした。開発群を初期波形除細動適応の有無、目撃の有無、年齢(18-64、65-74、75-84、85歳以上)の3個の病院前因子を用いて16群(2×2×4=16)に分け、1ヶ月後の神経学的転帰良好予測率(<1%、1-3%、3-10%、10-20%、>20%)の16分割表を作成した。検証群においても1ヶ月後の神経学的転帰良好の割合を同様に弁別可能であった。しかしながら2015年-2016年の院外心停止を用いて検証したところ神経学的転帰良好の割合が低く予測された。1ヶ月後の神経学的転帰良好の割合は年々改善傾向にあるため、適宜、アップデートが必要と考えられた。一方で、全年齢区分において初期波形が非除細動適応で目撃のない場合には、1ヶ月後の神経学的転帰良好は1%未満と予測され、特に高齢者においては蘇生処置の差し控えを検討する根拠となると考えられた。本研究の成果は、高齢者の望まない救急搬送や無益な救急搬送の減少、救急搬送受け入れ病院の負担軽減、限られた医療資源の効率的な活用に繋がり、社会的、経済的、倫理的に非常に意義があると考える。
|