本研究の目的は、救急救命士における特定行為指示の実施状況の解析を行うことで、救命率向上に寄与する包括指示下プロトコル開発を行うことである。研究代表者の在籍する施設がメディカルコントロールを管轄する9つの消防本部の協力の下で、研究を実施した。 はじめに、特定行為の実施状況について調査を実施した。その結果、声門上器具気道確保、静脈路確保、初回アドレナリン投与(以下、薬投)、の3つの特定行為については、救急救命士の提案に対して医師が同意する形で具体的指示を行っており、99%以上の率で医師による介入(提案した処置に対する助言や修正)が無かった。この結果を受けて、北海道では平成30年4月1日から救急活動プロトコルが改訂された。それまで、薬投までに要していた2回の具体的指示(静脈路確保と、静脈路確保後の薬投に関する具体的指示)が1回(静脈路確保と、確保できた場合の薬投)となった。その結果、プロトコル改訂前後で、傷病者接触から薬投まで30秒程度の時間短縮が得られた。 次に、3つの特定行為全てが包括指示化された場合の時間短縮効果について、院外心停止症例での活動シミュレーションの動画撮影を行い、接触から薬投までの時間を計測した。その結果、現行の具体的指示を要する活動と包括指示化した場合の活動を比較すると、傷病者接触から薬投までの時間は35秒短縮された。 また、フィンランド共和国とアメリカ合衆国マサチューセッツ州で救急隊の現地調査を行ったところ、両国とも救急救命士をはじめとする救急隊員は多数の医療行為を実施可能であり、3つの特定行為は包括指示下で実施可能であった。 平成29年3月30日発出の総務省消防庁の通知で、初期心電図波形がショック非適応リズムの場合、傷病者接触後、速やかに薬投を実施する活動を基本とすることが提案されており、特定行為の包括指示化は十分に検討に値するものである。
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