研究課題/領域番号 |
16K19184
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川尻 雄大 九州大学, 薬学研究院, 助教 (30621685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 抗がん剤 / 末梢神経障害 / パクリタキセル / オキサリプラチン / シスプラチン / フマル酸ジメチル |
研究実績の概要 |
【目的】一部の抗がん剤(オキサリプラチン、パクリタキセル、ボルテゾミブなど)は、副作用として末梢神経障害を引き起こすが、その対応策は確立されていない。本研究では、基礎・臨床の双方から抗がん剤による末梢神経障害の対応策を確立することを目的とした。 【方法】基礎研究においては、抗がん剤を反復投与した末梢神経障害モデルラットおよび培養細胞を用いて、抗がん剤の末梢神経障害の発現メカニズム解明と神経障害を抑制する薬剤の探索を行った。 【研究成果】動物モデルにおいて、オキサリプラチンを投与したラットでは神経細胞死・軸索変性・髄鞘形成障害が、パクリタキセルおよびボルテゾミブを投与したラットでは軸索変性が発現し、それぞれの末梢神経障害症状に関与することが明らかとなった。また、神経様細胞であるPC12細胞において、オキサリプラチンでは細胞死と神経様突起進展阻害(軸索変性を反映)が、パクリタキセルおよびボルテゾミブでは神経突起進展阻害がそれぞれ確認された。以上より、抗がん剤のによる末梢神経障害は原因薬剤により組織障害の種類が異なることが明らかとなり、それぞれの障害を標的とした対策の確立が必要であると考えられた。 一方で、種々の既承認医薬品の中から、抗がん剤による神経変性に対する保護作用を有する薬剤を探索したところ、Nrf2 ストレス応答系を賦活化するフマル酸ジメチルとその代謝物フマル酸モノメチルが、オキサリプラチン・シスプラチン・パクリタキセルによるPC12神経様突起進展阻害作用を抑制することを明らかとした。また、この神経保護作用はパクリタキセルによる突起進展阻害に対してより、オキサリプラチンやシスプラチンによる突起進展阻害に対しての方が強く表れることが明らかとなった。 さらに、ポラプレジンクが神経細胞へのマクロファージの浸潤を抑制し、パクリタキセルの末梢神経障害の発現を抑制することも、見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 28 年度は、基礎研究において①末梢神経障害の発現メカニズムの解明、②有効な薬剤の探索を行うと同時に、臨床研究において③末梢神経障害の発現状況の把握を行うことを計画としていた。 そのうち、①末梢神経障害の発現メカニズムの解明に関して、特に神経障害発現の初期障害である神経自体の傷害(神経細胞死、軸索変性、髄鞘形成障害)自体が、それぞれの原因薬物(オキサリプラチン・パクリタキセル・ボルテゾミブ)により異なることを明らかとした。また、②有効な薬剤の探索に関しては、多種の医薬品の中からフマル酸ジメチルやポラプレジンクの神経保護作用を見出している。③末梢神経障害の発現状況の把握に関しては、倫理委員会の承認の兼ね合い等で明確なデータを示せるまでには至ってはいないが、全体としては、ほぼ経過通り進行している。 また、研究期間中、所属・研究環境等の変更があったが、研究自体は滞りなく、スムーズに実施ができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成 29 年度は、まず、基礎研究のうち②神経障害に有効な薬剤の探索に関して、平成 28 年度に神経保護作用を確認したフマル酸ジメチルに関して、動物レベルでの作用の出方や保護作用のメカニズムを解明する。また、フマル酸ジメチルやポラプレジンク以外の医薬品の中から、抗がん剤による末梢神経障害(特に軸索変性等)に対して抑制作用を有する薬剤を探索する。 一方、臨床研究においても、③末梢神経障害の発現状況の把握、④発現に関わる要因の探索を同時に行う。具体的には、九州大学病院でオキサリプラチン、パクリタキセル、ボルテゾミブを投与する患者の末梢神経障害の発現状況を、カルテ等の情報を基に後向きに調査し、症状、発現時期、頻度、重篤度を評価し、年齢、性別、体格(体重、身長、体表面積)、血液検査値(アルブミン、クレアチニン、BUN、AST、ALT、γ-GTP、Na、Ca、K、Cl、Mg、CRP、HbA1c、グルコアルブミン、総コレステロール、中性脂肪、HDL コレステロール、LDLコレステロール、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、血小板数等)、投与スケジュール(治療レジメン、累積投与量、治療強度)、併用薬(降圧薬、高脂血症薬、糖尿病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬、漢方、ビタミン、鎮痛薬、ステロイド等すべての薬剤)、その他患者背景(糖尿病をはじめ、各既往歴の有無)等から末梢神経障害の発現に関わる因子や軽減する因子を特定する。 基礎・臨床双方から、抗がん剤による末梢神経障害の対応策確立を目指す。
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