研究課題/領域番号 |
16K19188
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大黒 亜美 関西学院大学, 理工学部, 助教 (20634497)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エポキシド加水分解酵素 / EET / DHA / 酸化ストレス / アラキドン酸 |
研究実績の概要 |
可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)は生体内においてアラキドン酸エポキシドであるエポキシエイコサトリエン酸(EET)を代謝する酵素であり、EETの生理活性の調節において重要な役割を担っている。sEH発現量は糖尿病において高グルコースに起因する酸化ストレスにより減少することをこれまでに明らかにしている。sEHの減少に伴うEETの増加は、酸化ストレスによる細胞障害を抑制することを明らかにしており、sEHの減少は酸化ストレスに対する防御としての応答機構であると考えられる。本研究ではEETの新たな生理活性を明らかにするため、神経細胞への影響を検討した。糖尿病の合併症の一つである神経障害ではNGF等の成長因子の産生低下も報告されている。EETは成長因子非存在下において、SH-SY5Y細胞の神経分化を促進することを見出し、またNGFやレチノイン酸存在下においては突起の長さを促進する作用があることを明らかにした。またこれらの作用において、EETによる細胞内へのカルシウムイオンの流入が関与することを明らかにした。 昨年度までの研究において、sEHはEETに加えてDHAエポキシ体の加水分解にも関わることやDHAのエポキシ化に関わるP450分子種を明らかにしている。本研究において、DHAエポキシ体も神経細胞の突起伸長を促進したが、EETほど顕著な作用はみられなかった。一方で、DHAエポキシ体は神経細胞において酸化ストレスによる細胞障害を抑制することを明らかにした。また糖尿病のモデルとして線虫のグルコース過剰摂取は寿命を短縮することが報告されている。本研究では、線虫においてDHAの摂取が、グルコース過剰摂取による寿命短縮を一部抑制することを明らかにし、またDHAエポキシ化に関わるP450の阻害は寿命を短縮させることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではEETの新たな生理活性として神経細胞への作用を明らかにすることができた。一方で、EETのsEHによる加水分解産物であるDHETにはこれらの作用は見られず、またsEHの阻害剤は神経細胞の突起伸長を促進したことから、sEHはEET量を制御することで神経細胞機能において重要な役割を担っている可能性が考えられる。またDHA酸化体についても細胞の酸化ストレス障害の抑制において新たな作用を見出し、DHAの摂取は線虫を用いた固体レベルにおいても高グルコースが生体に及ぼす悪影響を緩和できることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に明らかにしたEETの神経細胞の突起伸長促進作用においては、EETによる細胞内へのカルシウムイオン流入の作用機序を明らかにする。またDHAエポキシ体については、どのような因子に作用することで酸化ストレスによる細胞障害を抑制しているかを解明する。またDHAが作用すると報告されているG-タンパク質受容体にDHAエポキシ体も作用するかについても明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 必要な試薬類を購入し、端数が生じた。 (使用計画) 次年度の試薬類購入に充てる。
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