研究実績の概要 |
日本における糖尿病患者は年々増加しており、近年では、糖尿病は神経変性疾患の発症リスクを増加させることも示されている。本年度では、アラキドン酸やDHAなどの不飽和脂肪酸のエポキシ体の糖尿病における脳機能への作用を明らかにすることを目的とした。昨年度までの研究において、アラキドン酸エポキシドである14,15-EETは、神経細胞の突起伸長促進作用があることを見出しており、本年度においては、14,15-EETの作用が陽イオンチャネルであるTRPV4を介したカルシウムイオンの流入によるものであることを明らかにし、ラット海馬の神経細胞において、軸索の伸長も促進することを明らかにした。一方でDHAエポキシ体は、酸化ストレスによる神経細胞障害を抑制する作用を示すことを昨年度までに明らかにしており、本年度においてはⅡ型糖尿病モデルであるGKラットを用いて、DHA、及びDHAエポキシ体の代謝酵素であるsEHの阻害剤を併用して摂取させたときの効果を検討した。実験開始から6週間後の脳において抗酸化因子はWistarラットに比べてGKラットでは減少しており、一方で炎症性サイトカインの発現はGKラットでは増加していたのに対して、GKラットにおけるDHA及びsEH阻害剤の併用摂取群においては、これらの変化が抑制されていた。従ってDHAエポキシ体は、糖尿病における脳の酸化ストレスや炎症を抑制する作用がある可能性が示唆された。またin vitroの実験系においては、DHAエポキシ体は、小胞体ストレスにおけるタンパク質凝集を抑制する作用があることを見出しており、DHAエポキシ体が神経変性疾患の脳機能に与える影響についても今後、検討を行いたい。
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