研究課題
動物モデルを使用した実験結果から、精神的ストレスにより血中Fabp7濃度の上昇が認められた。ごく短期間のストレスに対しては一過的な血中Fabp7濃度の上昇が認められたが、24時間後には定常状態に戻った。他方、慢性的にストレスを与えた場合にはストレス負荷の後に血中Fabp7濃度の上昇が維持された。このことから、血中のFABP7は精神的なストレスの指標になる可能性が考えられた。今後はMK-801投与モデル(統合失調症)やリポポリサッカリド投与モデル(抑うつ状態)といった精神疾患の病態モデルとして広く受け入れられている動物モデルを対象として血中Fabp7濃度の動態を明らかにする予定である。本研究では、初年度より最終年度に向けて統合失調症、双極性障害及びうつ病患者からの血液採取を継続的に行っている。そこで、平成28年度に得ることのできた検体を対象として血中FABP7をドットブロット法により測定し、対照者と定性的な比較を行った。その結果、精神疾患患者由来の血中FABP7濃度は対照者と比較して高い傾向が示された。また、統合失調症、双極性障害及びうつ病において疾患グループ間での差は認められなかった。このことから、血中FABP7濃度の上昇はこれらの疾患における共通の病態に関わっている事が示唆された。今後はより正確な定量が可能なELISA法にて対照者及び精神疾患患者由来の血中FABP7濃度を測定し、患者の状態、重症度との相関を検討することで、精神疾患における新規の生物学的マーカーとしてのFABP7の有用性を明らかにしていく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
細胞レベルでFABP7に抗酸化作用の役割があることを示すことが出来た。動物実験では拘束ストレス負荷マウスにおける血中FABP7濃度の関係の検討から精神的ストレスに相関する血中FABP7の動態を示すことができた。また、前倒し的に行った臨床検体を用いた予備的研究では精神疾患と血中FABP7の関係について相関が示されたことから、血中FABP7が精神疾患における生物学的マーカーとして期待できる結果を得られた。
FABPファミリーに抗酸化ストレスの役割が示唆されていることから、FABP7における細胞レベルでの抗酸化メカニズムについて検討する。また、実験動物を用いた検討では統合失調症の病態モデルとして知られているMK-801投与マウスやリポポリサッカリド投与による炎症系を経由した抑うつ状態モデルマウス等複数のモデルマウスにおける血中Fabp7濃度の変化について分析を行い、異なる病態モデルにおけるFabp7の動態を調べる。また、これらの脳組織の酸化ストレスレベルを調べ、脳の酸化ストレスレベルと血中Fabp7濃度の相関も明らかにする。臨床検体を用いた研究においてはELISA法を用いて定量的に対照者および精神疾患患者由来の血中FABP7濃度を比較し、精神疾患のリスクの予測、重症度との相関、診断補助としての生物学的マーカーを検討する。FABPファミリーの中ではFABP3及びFABP5も脳での発現が認められることから、これらについても定量分析を行う。
年度内に使用するべき試薬等の購入には残額が足りないため。
本研究で平成29年度に計画している研究における試薬等の購入に充てる。特にFABP7の定量に係る試薬やキットの購入に使用する予定である。
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