研究課題
精神疾患では身体疾患とは異なり決定的な生物学的指標がない為、客観的な診断が困難である。これは、精神疾患の場合、病態における責任器官が脳であり、患者における生物学的な分析を行うことが困難である為である。これまでに、血液のような末梢組織を対象に臨床症状に相関する代替マーカーの探索が行われてきたが、末梢組織に通常発現する分子は脳の状況よりも末梢組織における代謝の影響が大きいことなどから、診断に有用な指標の発見には至っていない。本研究では、脳組織特異的に発現する脳型脂肪酸結合タンパク質(B-FABP)に焦点を当てて、精神疾患や臨床症状との相関を検討した。健常者および、北海道大学病院に通院する統合失調症、双極性障害ならびにうつ病の患者を対象に研究協力の同意が得られた者に対して、採血を行い、血漿を分離して本研究の分析に用いた。統合失調症患者においてはPositive and Negative Syndrome Scale:PANSS、双極性障害ならびにうつ病の患者にはMontgomery-Asberg Depression Rating Scale:MADRSにより、臨床症状を評価した。本研究は北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の承認のもと遂行された。健常者の血漿中B-FABP濃度の測定結果から性差及び年齢との相関は認められなかった。疾患群と健常群との比較の結果、疾患群ではいずれも血漿中B-FABP濃度が有意に高かった。また、統合失調症に関しては臨床症状との相関も示された。精神疾患においては診断や重症度の評価において、客観的な指標が存在しないのが現状であるが、B-FABPは日常的な血液検査レベルで精神疾患の診断補助や重症度の評価を行うことができるバイオマーカーとしての応用に期待できる。また、臨床と実験動物における共通指標になりうることから、学術的にも意義のある知見が得られた。
すべて 2018
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)