研究課題
小児急性骨髄性白血病(AML)の予後は、遺伝子染色体異常等に基づく治療層別化により改善してきた。しかし、依然として低リスク群・標準リスク群であっても難治・再発例がみられ、それらの予後は不良である。よって、さらなる治療層別化につながる新規予後因子の同定が急務である。今回248例の小児AMLの臨床検体を用いて、CXCR4遺伝子の発現量と予後との関連を調べた。その結果、低リスク群においてCXCR4高発現群は低発現群と比較して全生存率が有意に低かった。さらに低リスク群の中で最も頻度の高かったt(8;21)AMLのうち、CXCR4高発現群は髄外浸潤の指標である臓器腫大の割合が有意に高かった。よって、CXCR4高発現は少なくとも低リスク群のAMLにおいて予後不良因子となり、そのメカニズムとして白血病細胞の髄外浸潤が関与する可能性が考えられた。CXCR4は治療ターゲットとなりうることが知られており、従来の抗がん剤とCXCR4拮抗剤を併用したAML治療は有望である可能性がある。上記成果に関し、論文発表を行った(Matsuo H, et al. Pediatr Blood Cancer. 2016;63:1394-9.)。また、従来の予後因子解析では、骨髄液中の白血病細胞割合が低い症例において正常細胞の混入が遺伝子異常検出の障害となっていた。そこで、レーザーマイクロダイセクション(LMD)を応用し、スメア標本より血球形態に基づいて白血病細胞を純化する新しい手法を開発した。本成果に関しても論文発表を行った(Matsuo H, et al. Int J Hematol. 2017, in press)。
1: 当初の計画以上に進展している
理由は下記の3点である。1)小児AMLの新規予後不良因子として既にCXCR4高発現を同定し論文発表していること、2)LMDを用いた高精度な予後因子解析についても検体収集の目途が立っていること、3)別途行っている小児AML検体の全エクソン解析により、新規予後因子の候補となる遺伝子変異を複数同定していること。
全エクソン解析で見出した新規予後因子の候補について、多数検体でターゲットシーケンスを行う。白血病細胞割合が低い症例においてはLMDを用いた手法を適用し解析を行う。ターゲットシーケンス結果を用いて、臨床情報(再発、死亡)との比較、および代表者が報告してきた既知の予後因子(CEBPA、EVI1、CXCR4など)のデータを加えた多変量解析により、予後因子としての有用性を明らかにする。その後、小児AMLのきめ細かな治療層別化につながる予後予測モデルを構築する。
次世代シーケンスに使用する試薬に一部変更が生じ、結果として次年度使用額が生じることとなった。
研究にかかる消耗品(試薬、実験器具)の代金、英文校正料、論文投稿料等に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Int J Hematol.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s12185-017-2227-z.
Pediatr Blood Cancer.
巻: 63 ページ: 1394-9
10.1002/pbc.26035.
血液フロンティア
巻: 26 ページ: 1513-21