本研究では、腱板断裂肩における上腕二頭筋長頭腱(Long Head of Biceps Tendon: LHBT)由来の痛みと神経支配の特徴について、①LHBT自体に由来する痛みの特徴はどのようなものか?、②LHBTがどのような腱板断裂の患者においてどれだけ疼痛源となっているのか?の2点を明らかにすることを目的とした。①に関して、高張食塩水のLHBTへの注射によるヒト実験痛モデルを作成し、LHBT由来の痛みは必ずしも肩前面に限局しないこと、腱に構造的、生体力学的異常がなくても痛みだけで結節間溝の圧痛閾値と肩外転筋力と肘屈曲筋力を約30%低下させること、肩外転筋力の低下は痛みの強さと関係するが肘屈曲筋力は痛みの強さと関係なく生じることを明らかにした。この結果を国際学会、全国学会で報告するとともに最終年度に論文を発表した。②に関して、手術で採取したLHBT、滑膜の免疫組織化学染色を行い、LHBTに発現する疼痛関連分子の検出を目指して最終年度も実験を継続した。腱のホモジナイズの方法、固定および包埋方法、抗体の種類や抗原賦活化処理法を含む染色手技に改善を加えながら複数回チャレンジしたが、いずれも過去の報告から想定したような疼痛関連分子の有意な発現は確認できなかった。直近の免疫染色の報告ではLHBTの実質部における神経支配はかなり少ないというものも散見され、これを検出することはかなり難しい可能性が考えられた。そこで疼痛関連分子の検出法をELISAに切り換えて実験を継続したところ、Substance Pと神経成長因子に関してはLHBTに滑膜と同程度の発現が認められたが、IL-1bについては極めて少ない発現であった。②については当初計画したゴールまで到達できなかったが、ELISAで得られた結果を今後の研究の足がかりにしていく予定である。
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