研究課題
アトピー性皮膚炎(AD)における難治性のかゆみは、不眠や就労障害の原因となり患者のQuality of Life(QOL)を著しく障害する。AD病変部では、神経伸長因子nerve growth factor(NGF)の発現亢進に加えて、神経反発因子semaphorin3A(Sema3A)の発現が低下することで表皮内神経が稠密化する。この稠密化は外部からのかゆみ刺激に対する受容増加に繋がるため、ADの末梢におけるかゆみ過敏の一因であると考えられている。またAD病変部は、表皮角化細胞における抗菌ペプチドの産生が誘導されないために、易感染性である。最近、我々は表皮角化細胞におけるSema3A発現が抗菌ペプチドの一種であるカテリシジンによって増加することを見出した。そこで、本研究では抗菌ペプチドカテリシジンを用いた止痒効果と抗菌作用を有する新しいAD治療薬の開発を目指す。平成28年度は慢性ドライスキンモデルマウス(AEWマウス)のかゆみに対するカテリシジンの予防効果について検討を行った。AEWマウス作製時にカテリシジン配合軟膏を塗布した結果、対照群と比較してかゆみ行動の抑制は認められなかったが、NGFの発現低下およびバリア機能の改善(経皮水分蒸散量の減少、pHの減少、角層水分量の増加)が認められた。これらの結果から、カテリシジンはドライスキンの誘発を防ぐことが示唆された。現在、皮膚のバリア機能を正常に保つために重要なプロテアーゼやタイトジャンクション構成タンパク質等の発現を検討し、バリア機能を改善するメカニズムについて解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究では、抗菌ペプチドであるカテリシジンがバリア機能の改善効果(経皮水分蒸散量の減少、pHの減少、角層水分量の増加)を持ち、ドライスキンの誘発を防ぐことが示唆された。ほぼ予定通りに研究は進行している。
平成28年度の研究成果を踏まえ、平成29年度はADモデルNC/Ngaマウスのかゆみに対するカテリシジンの治療効果について検討を行う予定である。本研究成果の学会発表および論文化も予定している。
必要に応じて研究費を執行したため、端数が生じた。
上記の理由から、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初予定通りの計画を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
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