研究課題/領域番号 |
16K19219
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
井上 明俊 関西医科大学, 医学部, 助教 (50709152)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 痒み / c-fos / 全脳イメージング |
研究実績の概要 |
痒みの研究はこれまで末梢組織を中心に行われており、脊髄や脳における痒みの伝達、制御機構はまだよく分かっていない。そこで、本研究では脊髄や脳における痒み特異的な伝達経路、伝達機構を明らかにすることを目的としている。 初めに頬への痒み刺激が三叉神経脊髄路核においてどのように伝達、制御され脳へと出力されるのか、ノックアウトマウスを用いた遺伝学的、生化学的な解析を行った。NMDA 受容体(NMDAR)のNR2B サブユニットのリン酸化部位を消失させたノックインマウス(NR2B Y1472F-KI)では様々な痒み物質への応答が野生型に比べて大きく低下した。一方、痛みに対する応答は正常であった。このことからNR2Bのリン酸化は痒み特異的な神経伝達に重要であることを明らかになった。さらにこのNMDARの活性化は、痒み特異的な経路として報告されているGRP経路の上流で働くことを明らかにした。これらの研究成果を論文にまとめEuropean Journal of Neuroscienceに投稿した。 次に、脳における痒みや痛みの伝達、制御領域を網羅的に解析するために、痒み刺激後の活動神経をc-fosやArc遺伝子の発現を指標とした全脳イメージング解析を進めている。arc-dVenusマウス、fos-tTA/fos-shEGFPマウスを入手し頬に痒み物質を投与した場合のシグナルを比較したところarc-dVenusの発現はfos-shEGFPマウスに比べて弱く発現細胞数も少なかった。そこでfos-tTA/fos-shEGFPマウスを用いて頬に痒み物質であるクロロキンや痛み物質であるカプサイシンを投与した後に固定して、脳サンプルを作製した。これらのサンプルを用いて大阪大学の橋本均先生との共同研究により全脳にわたる3Dイメージングを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「脊髄における痒み特異的な神経伝達機構の解明」と「脳における痒み伝達経路の解明」の2つのテーマを明らかにすることを目的としている。脊髄における解析ではNMDARの活性化が痒み伝達に関わることを初めて明らかにし、さらに既知の痒み経路との関わりも明らかにすることで目標達成へ大きく前進することができた。今後は慢性的な痒みにおいて脊髄レベルで感作などの可塑的な変化が起こっているのか解析していく予定である。脳における解析ではfos-EGFPマウスを用いた痒みや痛み刺激後の脳サンプルの作製をを行った。今後、これらのサンプルを用いて3D全脳イメージングを行い、痒みと痛み伝達経路の違いを明らかにしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
三叉神経脊髄路角におけるc-fos発現解析の結果、痒み刺激と痛み刺激では非常によく似た位置のニューロン群が活動していることが明らかになっている。脳においても痛みと痒みで近接した脳領域が活性化されることが予想される。そこで脊髄や脳における痒みと痛みの神経回路を区別するためにDREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug)システムやジフテリア毒素受容体(DTR)を用いた人為的な神経活動操作を行い、痒みや痛みが変化するかを解析する。現在、TRE-hM4Diマウスを入手しfos-tTA/cfos-EGFPマウスとの掛け合わせを行っている。このマウスを用いて痒み刺激後にCNOを局所投与することによりc-fos発現細胞の活動を抑制することができる。そこで、痒みに応答する神経回路を抑制した場合に痛みへの応答が変化するか解析し、痒みと痛みを伝達する神経回路を区別する。さらにTREプロモーター下でDTRを発現するTRE-DTRマウスも作製中である。このマウスをジフテリア毒素を投与することによりc-fos発現細胞を特異的に破壊することが可能である。 慢性的な痒みのモデルとしてビタミンDアナログであるMC-903を1週間頬に塗布し自発的な掻破行動を示すアトピーのモデルマウスを作製した。これらのマウスの三叉神経脊髄路角おいて痒み神経伝達の可塑的変化が起きているのかを明らかにするために、大層内にNMDAやGRPの痒み伝達物質を投与し、痒みの応答が変化しているかを解析する。 脳における痒み伝達経路の解明に向けて、作製したfos-EGFPマウスの脳サンプルの全脳イメージングを進める。痒み伝達に関わる脳領域が明らかになれば、DREADDシステムやDTR発現により人為的にその領域の神経活動を抑制し、痒みや痛みへの応答が変化するか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物飼育費や必要な試薬の購入費が実験の進行により変化したため当初の予定より少ない使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
痒み伝達の解析において神経伝達物質やその阻害剤は高価であり本年度未使用分の助成金はその購入に用いる予定である。
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