近年、末梢神経損により増殖・活性化される脊髄マイクログリアは、インターロイキンを始めとする炎症性サイトカインや脂質メディエーターが遊離され、神経障害性疼痛発症の担い手として知られるようになった。しかしながら、末梢神経損傷により誘発される脊髄マイクログリアの増殖機構、およびこれらが疼痛行動に及ぼす影響について不明であった。そこで本課題ではこれらについて検討した。 末梢神経が損傷されるとその損傷を受けたニューロン(受傷ニューロン)でマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)のmRNAが受傷後1日から有意差を持って増加することが明らかとなった。これは受傷3日後に最大となるマイクログリアの活性化に先行するものであり、損傷ニューロンのM-CSF増加と脊髄マイクログリア増殖のタイミングは、時空間的に一致するものであった。M-CSF受容体拮抗薬の髄腔内投与は、末梢神経損傷により誘発される脊髄マイクログリアの増殖と神経障害性疼痛を有意に抑制した。さらにナイーブラットへのリコンビナントM-CSF髄腔内投与は、マイクログリアの増殖を誘発し、疼痛様行動を惹起することが明らかとなった。またマイクログリア活性化の指標となるp38マップキナーゼのリン酸化も弱いながら誘発することが分かった。この結果は末梢神経損傷による脊髄マイクログリアの増殖に随伴する神経障害性疼痛を擬似的に再現するものであった。 以上のことから、本検討においてM-CSFは受傷ニューロンと末梢神経損により誘発される脊髄マイクログリア増殖および、これに付随して発症する神経障害性疼痛を結びつける重要な因子であることが明らかになった。 尚、この研究成果は、国際雑誌PLoS Oneに掲載された(doi:10.1371/journal.pone.0153375)。
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