本研究課題は粒子線治療時に生成される中性子が誘発する2次がんに着目し、粒子線治療によって患者が被る中性子線量を予測して2次がんが最も少なくなる照射方法決定の一助とすることを目標としている。 本年度はまず構築した陽子線照射装置で算出した中性子線量の精度検証を行った。先行研究による測定条件を再現してシミュレーション計算し、陽子線のスキャニング幅を16x16 cm、17x17 cm、18x18 cmと変化させた場合において実測値と±5%以内の誤差を確認した。続いて日本人と欧米人を模擬した2種類のボクセルファントムに対して、同一の照射条件を適用した際の全身の臓器線量を算出した。各臓器においてスキャニング幅と中性子線量は比例関係にあり、先行研究と同様の結果が確認された。またExternal neutron(照射装置等との反応により生成される中性子)による線量寄与はInternal neutron(人体との反応により生成される中性子)の約10倍であり、2次がんリスクの低減のためにはExternal neutronを低減させることが効果的であると示された。一方、2種類のボクセルファントム間で臓器線量を比較すると、甲状腺では4.6%、食道や肝臓などの体幹部臓器では10%から25%、腎臓では134%の差が確認された。先行研究より光子に対する比吸収割合の差は報告されていたが、中性子線量に関する報告は本研究が初である。これにより、正確な2次がんリスク評価システムの構築のためには体格や臓器間距離などの因子を加味する必要があることが示され、リスク値予測システムの開発に資することができた。
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