研究課題/領域番号 |
16K19235
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
岐部 佳朗 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (40583406)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水シンチレーター |
研究実績の概要 |
水を主成分としたリチウム6含有液体シンチレーターを作成するために、最適な界面活性剤の選定を行った。界面活性剤は水に液体シンチレーターに必要な発光剤を溶かす上で必要不可欠なものである。本研究ではさらに中性子を捕獲するリチウム6を含む臭化リチウムも混ぜ合わせるため、白濁や沈殿などの現象が起きないものを選ばなければならない。本年度はこの界面活性剤として直鎖のものとベンゼン環を含むものについて実験を行った。その結果、臭化リチウムを混ぜても直鎖の界面活性剤では沈殿などが起きることなく、無色透明な水シンチレーターを作成することができた。一方、ベンゼン環を含む界面活性剤では臭化リチウムを混ぜた際に白濁化するなどの現象が見られた。作成したシンチレーターについてはブラックライトを照射し、発光することを目視で確認している。 同時に検出器の作成に向けて Geant4 を用いたモンテカルロシミュレーションも実施した。具体的には横30cm、縦および奥行き3cmのアクリルケースの両端に光検出器である MPPC (Multi Pixel Photon Counter) を取り付け、アクリルケース内に水シンチレーターを封入したものを想定し、中性子を照射した場合の発光や検出効率について見積もった。これにより6リチウム含有水シンチレーターが中性子を観測可能であることを確認した。その一方で中性子の発生点についての位置分解能が想定以下であることも判明したため、この課題を克服するための手法を考察する必要がある。今後は早急に読み出し系を含めた検出器を作成し、実機での中性子測定を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初実験を予定していた場所での実施が困難であることが判明し、研究を行うための環境を整備する必要が生じた。加えて、研究以外の業務に関わる時間が多く、研究に関するエフォートの割合が低くなってしまった。 これらの想定外の事態に陥ったが、その間、大掛かりな実験装置などがなくてもできる研究(モンテカルロシミュレーションなど)をできる限り実施し、環境が整った後、すぐに実験に取りかかれるような準備を行った。その甲斐もあり、実験が可能な状況になって以降は、当初予定していた水シンチレーターの作成や発光の確認などをスムーズに進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に実施する予定だったガンマ線源を用いた水シンチレーターの発光量測定をできる限り迅速に行う。この測定を通して、基本的なデータ取得の手法や水シンチレーターの性質について研究を進めていく。同時に透過度や発光スペクトルなどの物性値の測定を実施し、二次中性子の測定に対して最も適した水シンチレーターの探索を実施する。 その後は中性子線源を用いて中性子の検出効率や粒子の識別能力など、検出器の開発に注力していく。具体的にはガンマ線と中性子を同時に放出する 252Cf 線源を用いる。6リチウム含有水シンチレーターでは、中性子は6リチウムに捕獲されアルファ粒子が放出される。ガンマ線が発光した場合とアルファ粒子では発光時定数が異なることを利用して粒子識別が可能かどうか、またその分離効率について実験を行う。 上記に加えて、平成29年度は成果を報告するため国内外の学会に参加しようと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述したように、研究に関する環境の整備と当初の予定よりも研究以外の業務に携わる時間が多くなり、エフォートの割合が低くなってしまったため、予定していた研究を一部実施することができなかった。特に発光量の測定に関わる装置が本年度使用額の多くを占めていたため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
発光量を測定する装置一式を早急に購入する。また平成29年度の実験計画に沿って、TDC やディスクリミネーターなどの測定に関するモジュール類の購入を行う。 引き続き、来年度も水シンチレーターの作成を実施するため、界面活性剤や発光剤の購入なども行う。 上記に加え、国内外で開催される学会などに出席するための参加費および旅費の使用を考えている。
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