研究課題/領域番号 |
16K19239
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
佐藤 英介 杏林大学, 保健学部, 助教 (00439150)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 中性子捕捉療法 / MRS / 非侵襲的モニタリング |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy:BNCT)の治療効果は,腫瘍内に取り込まれたホウ素化合物(boronophenylalanine:BPA)のホウ素量とその分布に大きく依存する.BNCTでは,「腫瘍内のホウ素分布は均一である」という前提で治療計画が立案されているが,実際の腫瘍内(ミクロレベル)でのホウ素分布は不均一であるため,治療計画で立案された患者に付与される線量は正確ではない.そこで,本申請者は,MRS(magnetic resonance spectroscopy)を用いてホウ素量及びホウ素分布の均一性(あるいは不均一性)を評価する手法を確立し,より高精度なBNCTを達成することを目的とした. 本申請者は,生体深部の代謝情報を非侵襲的に取得できるMRSに着目した.MRSは主に脳腫瘍を対象とし,脳内代謝物(Cho,Cr,NAA)の濃度比(Cho/Crなど)を定量できる.なかでも,Choは細胞膜輸送に関係するリン脂質の材料であり,神経細胞やグリア細胞等の細胞密度に相関する場合が多い.これは,Choが細胞膜輸送の増減に関わることを示唆している.したがって,Choを定量評価することにより,細胞膜輸送で腫瘍内に取り込まれるBPA量(ホウ素量)を推定できる可能性がある.本検討を実施するにあたり,平成28年度は脳腫瘍モデルファントムの作製に取り組んだ.ファントム素材としてポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)を採用することにより,腫瘍内における拡散の度合いをコントロールできるファントムの作製に成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請者は,PEGを用いた脳腫瘍モデルファントムの作製に取り組み,PEG濃度を調整することによって腫瘍内における拡散の度合いをコントロールできることを確認しており,本研究で掲げた当初の目標は概ね達成されている.
|
今後の研究の推進方策 |
より高精度のBNCTを実現するためには,ミクロレベルのホウ素分布を画像化して治療計画に活用することが必要である.そこで,平成29年度は,PEGを素材とした脳腫瘍モデルファントムを用いてBPAを定量化するためのMRSデータ取得条件の最適化に取り組む.MRSデータ取得条件を最適化することにより,BPAを封入した脳腫瘍モデルファントムを用いてホウ素量(BPA濃度)を定量できる可能性がある.ホウ素量(BPA濃度)の定量値はホウ素分布を画像化する際の元データとなるため,ファントムの経時変化やMRSデータ取得における再現性(繰返し性)を含めた特性評価を実施する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
脳腫瘍モデルファントムを作製するにあたり,PEG濃度と拡散の度合い(apparent diffusion coefficient:ADC)の関係を調査したが,人体の脳腫瘍を模擬するためにはより詳細な検討(PEGの分子量とADCの関係,ファントムの温度上昇など)が必要である.これらの特性評価を実施するとともに,BPAを封入した状態でMRSデータ取得条件の最適化に取り組むため,脳腫瘍モデルファントムに要する薬品類を調達する必要がある.脳腫瘍モデルファントムとしての基礎特性が得られた後,脳腫瘍モデルファントムの完成品を作製する.以上が,次年度使用額が発生した主な理由である.
|
次年度使用額の使用計画 |
脳腫瘍モデルファントムに必要な薬品類(Cho,Cr,NAA,BPAなど)を購入する.脳腫瘍モデルファントムとしての基礎特性を元に,脳腫瘍モデルファントムの完成品を発注する.また,実験および研究成果報告の旅費としての支出も計画している.
|