ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy:BNCT)の治療効果は,腫瘍内に取り込まれたホウ素化合物(boronophenylalanine:BPA)のホウ素量とその分布に大きく依存する.BNCTでは,「腫瘍内のホウ素分布は均一である」という前提で治療計画が立案されているが,実際の腫瘍内(ミクロレベル)でのホウ素分布は不均一であるため,治療計画で立案された患者に付与される線量は正確ではない.そこで,本申請者は,MRS(magnetic resonance spectroscopy)を用いてホウ素量及びホウ素分布の均一性(あるいは不均一性)を評価する手法を確立し,より高精度なBNCTを達成することを目的とした. 本申請者は,生体深部の代謝情報を非侵襲的に取得できるMRSに着目した.MRSは主に脳腫瘍を対象とし,脳内代謝物(Cho,Cr,NAA)の濃度比(Cho/Crなど)を定量できる.なかでも,Choは細胞膜輸送に関係するリン脂質の材料であり,神経細胞やグリア細胞等の細胞密度に相関する場合が多い.これは,Choが細胞膜輸送の増減に関わることを示唆している.したがって,Choを定量評価することにより,細胞膜輸送で腫瘍内に取り込まれるBPA量(ホウ素量)を推定できる可能性がある.本検討を実施するにあたり,平成29年度までに任意の見かけの拡散係数を持つポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)を用いたファントムの作製に成功し,データ取得条件の最適化に取り組んだ.平成30年度はこのPEGファントムの特性(繰返し性,再現性,経時変化)の評価に取り組み,その研究成果を国際学会で発表した.
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