陽子線治療ではがん病巣を正確に照射するために極めて高い幾何学的精度が要求される。金属マーカーを病巣の指標にして治療する方法は病巣に対する位置精度を向上させるが、陽子線が金属マーカーと相互作用し線量分布に影響を及ぼすことが報告されている。しかし、その影響の詳細は、十分には検討されておらず、汎用の治療計画装置では過小評価されている可能性がある。本研究の目的は陽子線と金属マーカーの相互作用を精確に測定し、治療計画装置の線量計算アルゴリズムで金属マーカーの線量影響を考慮する手法を考案することである。 平成28年度は、国内で販売されている医療用の金属マーカーを購入し、水等価矩形ファントム内部、人体ファントムの肝臓部と前立腺部に、それぞれ金属マーカーを配置して、治療計画用CT画像と陽子線治療時の位置決めkV-X線画像を撮影した。いずれの条件においても、すべての金属マーカーの視認性を確認し、CT画像では金属マーカーと同一断面上ではアーチファクトを観察した。 同時に、陽子線の線量分布を精確に測定するために使用するガフクロミックフィルムの陽子線への応答特性を測定した。3種類のエネルギーの陽子線を別々に照射し、フィルムの濃度変化と電離箱線量計による測定値から特性曲線を作成した。エネルギー依存性は認められず、フィルムが精確な線量測定に利用できることが確認できた。ところが、その後の検討において特性曲線は陽子線の線エネルギー付与の大きさに依存し、線量が15%程度変動することが判明した。また、各フィルムシートは固有の感度をもち、開封後の時間経過に伴い異なる応答特性を示した。このため、金属マーカーによる陽子線の線量分布の変化を精確に測定するためには、同一フィルムシートを使用し、目的とする深さで特性曲線の取得と金属マーカーの有無による影響評価を同日に検討する必要があると考えられる。
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