研究実績の概要 |
本研究は、日本の高齢者における犯罪不安と健康の関連について、そのメカニズムを説明するものである。 最終年度は、整備が完了した高齢者32,747名の3波の縦断データ(2010年、2013年、2016年)を用いて縦断媒介分析を行い、2010年の犯罪不安が2013年の媒介変数への影響を経て、2016年の主観的健康にどのような影響を及ぼすのかを検討した。媒介変数にはうつ(心理的経路)、外出頻度(行動的経路)、他者への信頼(社会的経路)を用いた。また、各変数を当該変数の1期前の変数で調整する自己回帰モデルを導入することによって、推計のバイアスを減少させた。加えて、犯罪不安から媒介変数を経た主観的健康への間接効果の検定には、ブートストラップ信頼区間を用いた。 分析結果から、犯罪不安から主観的健康の悪化に至る心理的経路、行動的経路、社会的経路はいずれも統計学的に有意であったが、媒介量が大きく異なることが明らかとなった。すなわち、犯罪不安による全体効果のうち各経路によって説明される割合は、心理的経路が7.7%、行動的経路が3.4%、社会的経路が33.0%であり、犯罪不安と主観的健康の悪化の多くが社会的経路によるものであることが示された。 研究期間中に実施された複数の分析(2013年調査回答者を対象としたコホートデータ解析や3波縦断データの分析)から、一貫して、欧米の知見とは異なる結果が見いだされた。欧米の研究においては、犯罪不安と健康の関連の多くが外出控えなどの行動の変化によるものであったが、本研究で対象とした日本の高齢者においては、不安によって他者への信頼などの心理社会的側面が毀損されることで健康に影響が及ぼされることが示唆された。ここから、犯罪不安が高い状況でも他者や社会とつながることが容易となるようなまちづくり方略が、犯罪不安による健康影響を低減させるのに有効となりうることが示唆された。
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