研究課題/領域番号 |
16K19249
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小椋 透 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (00580060)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実質水準 / 分割表 / ベイズ法 / マクネマー検定 / メタアナリシス |
研究実績の概要 |
本研究は次の2つを目的とする。(1) 有意水準を厳守しながら実質水準の高い検定法にマクネマー検定を改善する。(2) 対応のある2×2分割表の複数試験の併合(メタアナリシス)に、ベイズ法を用いて新たな検定法を確立させる。 被験者が「試験薬服用→ウオッシュアウト→対照薬服用」又は「対照薬服用→ウオッシュアウト→試験薬服用」の順に行われる臨床試験において、各被験者の試験薬及び対照薬の有効又は無効を判定した試験結果の要約には、対応のある2×2分割表が用いられる。さらに、試験薬と対照薬の有効率の差の検定には、マクネマー検定がよく用いられる。しかしながら、マクネマー検定の実質水準は有意水準を保てない場合があることは知られている。マクネマー検定はベイズ型の検定として表せることが示されており、本研究ではそのことを用いて有意水準を厳守した上で実質水準の高い検定法にマクネマー検定を改善する。 複数試験の併合において各臨床試験の2×2分割表の度数を単純に足し合わせて併合した2×2分割表を用いた検定は考えられるが、それでは各試験の結果が反映されないことになる。本研究では各臨床試験の検定統計量の積を併合の検定統計量とすることで、各試験の結果が反映させることとする。複数の臨床試験において結果を併合して解析できるのは、同手順の同種の臨床試験に限られる。その場合には、それらの臨床試験の結果は似た結果になりやすいと考えられる。もし、同手順の同種の臨床試験で結果が離れているようであれば、試験の質が低いことを意味しており、仮に有意になったとしても再現性は低いと考えられる。複数の臨床試験の結果が似ている結果の場合に有意になりやすく、複数の臨床試験の結果が離れている場合は有意になりにくくなることが妥当だと考えられる。本研究では併合の妥当性を含めた検定となるように新たな検定方法を提案する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は有意水準を厳守した上で実質水準の高い検定法にマクネマー検定を改善することを目的としていた。事後確率を検定統計量とすると、その検定統計量にはパラメータa, bが含まれる。このとき、a=b=0.5 のJeffreys’ prior、a=b=1のuniform prior、a=b=0.25のquarter priorを用いて有効性が検証した。また、通常は「T≧1-α」(α:有意水準)の枠組みで棄却域を決められることが多いが、本研究では「T≧1-α’」(α≠α’)の枠組み棄却域を決める。このとき、α’は有意水準を厳守しながら実質水準がなるべく高くなるように定めた。理論的な妥当性を示すことに成功しており、サンプルサイズ(n=10,20,…,200)ごとの性能比較も行った。n=10ではJeffreys’ priorの実質水準が一番高く、n=20, 30ではquarter priorの実質水準が一番高かった。Jeffreys’ prior とquarter prior をn=40をピークに以後はnが増えると実質水準は単調減少の傾向があった。uniform priorは周期的に実質水準の高低を繰り返しており、nによって実質水準が一番高いこともあれば、一番低くなることもあった。臨床試験において症例数設計は重要であり、症例数は試験開始前に定まることから、その症例数と照らしながら最適なpriorを選択するは可能である。 また、各サンプルサイズにおいて、有意水準α=0.05とした時に、実質水準を厳守しながら有意水準にどれだけ近いかを検討するとn=100では0.1≦母集団有効率のときはuniform priorを用いた場合が最適であり、0≦母集団有効率<0.1のときはJeffreys’ priorを用いた場合が最適であった。母集団有効率は通常分からないが、信頼できる事前情報がある場合には、同じnであってもさらに有利になる検定を選択できる可能性があることを示唆していた。 以上のことをまとめた論文が出版されたことから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
複数の臨床試験を併合して解析するメタアナリシスについて、各臨床試験の検定統計量の積を併合の検定統計量とした検定方法を提案する。Fisher (1973)のアイデアでは、各試験のP値の積を用いた方法が提案されており、本研究では各試験の検定統計量の積を併合の検定統計量として、有意水準を厳守しながら実質水準が高くなる検定への拡張を目指す。複数の2×2分割表における単純な和を用いて平成28年度の研究成果の検定を用いることは考えられるが、サンプルサイズが異なる試験を併合する場合に、単純な和であればサンプルサイズが大きい試験の影響が大きく、サンプルサイズが小さい試験の影響は小さくなる。また、結果の悪い試験が一つでもあっても、他の試験の結果が良ければ挽回可能である。しかしながら、再現性が問題であり悪い結果が見えにくくしている。一方、P値の積を用いると、サンプルサイズの違いの影響はほとんどなくなり、結果の悪い試験が一つでもあると、他の試験の結果がどんなに良くても有意になる確率は非常に低くなる。再現性の観点からも妥当性があると考えられる。 2試験の併合から開始して3試験以上の併合に取り組んでいく。サンプルサイズについては、近い症例数の試験の併合から開始して、症例数の差が大きい場合についても取り組んでいく。各試験の検定統計量の積を併合の検定統計量を用いた場合と複数の2×2分割表における単純な和を用いた場合の性能比較も行いながら、Jeffreys’ prior、uniform prior、quarter priorを用いてpriorの検討も行う。また、併合する試験の数が増えると計算時間が非常に長くなることが予想されることから、計算時間を短縮できるプログラムの開発にも取り組む。シミュレーションや実例などを用いて有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は申請者一人で行うが、研究が計画通りに進まない場合に、統計数理研究所・柳本武美教授、中央大学・鎌倉稔成教授と相談・ディスカッションを予定していた。研究は順調に進んでOgura and Yanagimoto (2016)の論文発行となり、研究打ち合わせ等が当初の予定より少なく済んだため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は本研究の最終年度であり、早急に研究を進めて行く。そのためには、統計数理研究所・柳本武美教授、中央大学・鎌倉稔成教授と相談・ディスカッションを積極的に行う。また、研究成果の公表として、論文作成に関する費用(英文校正費、投稿料)を計上し、国際学会、国内学会等で発表するために、旅費と参加費をそれぞれ計上する。
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