研究課題/領域番号 |
16K19262
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中山 渕利 日本大学, 歯学部, 助教 (10614159)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | サルコペニア / 摂食嚥下障害 / 窒息 / 口唇閉鎖圧 / 舌圧 |
研究実績の概要 |
急性期病院からリハビリテーション病院に入院し、脳卒中や神経筋疾患の既往がない65歳以上の高齢者201名を対象に舌圧、口唇閉鎖力、全身筋力の指標である握力と栄養状態 (MNA-SF)、経口摂取状況(FOIS)を評価した。低栄養によるサルコペニアを認める患者は認めない患者と比較して、舌圧と口唇閉鎖力が有意に低下していた。さらにサルコペニア群は非サルコペニア群と比較して経口摂取レベルであるFOISが有意に低かった。舌圧と口唇閉鎖力を従属変数とし、MNA-SFの下位項目を独立変数とした重回帰分析において、過去3か月の摂取量低下は舌圧、口唇閉鎖力と有意に関連していた。多変量解析においては、低栄養によるサルコペニアの存在は低摂食レベルの存在を調整しても舌圧と口唇閉鎖力に有意に関連していた。この研究結果により、低栄養による二次性サルコペニアにおいて、舌圧に加えて口唇閉鎖力も関係していることが明らかになった。口唇閉鎖力は、食事を口に入れる際の捕食動作に関係するうえに、咀嚼効率との関連性が報告されている。そのため、舌圧や口唇閉鎖力が低下することで食べにくさが出現し、摂取量の低下から低栄養によるサルコペニアを引き起こしている可能性も考えられた。つまり、サルコペニアのある者では、舌圧および口唇閉鎖力の低下により、咀嚼効率が低下することで、窒息を引き起こす危険性があることが考えられた。さらに、これまでに窒息経験のある施設入所者に、サルコペニアの疑いがあるか否かを、施設職員にアンケート調査を実施した。その結果、130名分の事例を集めることができた。サルコペニアのスクリーニングテストとして知られているSARC-Fにおいて、今回の対象者の88%が陽性(4以上)であった。また、半数が疲労しやすい傾向にあり、窒息経験者の多くは筋力や体力が低下している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度については、当初の計画にはなかったが、これまでサルコペニア患者に対して収集したデータをもとに、咀嚼機能に大きな影響を及ぼす舌の機能について分析した。その結果、サルコペニア患者では舌の機能低下があり、それが経口摂取を困難にしている可能性が示唆された。この研究論文は、国際雑誌Dysphagiaに掲載された。さらに、29年度は、舌とともに咀嚼効率に影響を及ぼす口唇閉鎖力とサルコペニア患者との関連性について調べた。その結果、口唇閉鎖力も舌圧とともにサルコペニア患者で低下しており、サルコペニア患者の咀嚼機能低下の要因になっていることが示唆された。この研究論文は、国際雑誌Clinical Interventions in Agingに掲載された。さらに、これまでに窒息経験のある施設入所者に、サルコペニアの疑いがあるか否かを、施設職員にアンケート調査を実施した。その結果、130名分の事例を集めることができた。そのアンケート結果を解析したところ、窒息経験者の多くは筋力や体力が低下している可能性が考えられた。この調査結果は日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会で発表した。当初の計画通りではないが、サルコペニアと口腔機能低下との関連性を明らかにできたうえに、施設入所中の窒息経験者の多くにサルコペニアの疑いがあったことが明らかにできたことは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
1.これまでに窒息経験のある施設入所者130名の身体的特徴について記載されたアンケートを収集した。今年度は窒息を経験していない施設入所者の身体的な特徴について調査する予定である。この収集したアンケートをもとに、窒息経験者と窒息非経験者の身体的な特徴を比較することで、窒息に関連する因子を明らかにする予定である。とくに、アンケート項目の中で、サルコペニアに関連した項目に着目し、サルコペニアと窒息との関連性について検討する。 2.回復期病院に入院中のサルコペニアの患者の入院時の握力、舌圧、口唇閉鎖圧、咀嚼効率、嚥下造影検査所見(食物の誤嚥、窒息、咽頭残留の有無、舌骨、甲状軟骨の嚥下時の変化量、咽頭収縮率等)を測定する。その後、栄養状態の改善とともにこれらの値がどのように変化するかを追跡調査する。 3.サルコペニアにより嚥下障害が生じた患者の嚥下造影検査画像を解析し、サルコペニア患者に特徴的な所見を認めた。また、サルコペニアの改善とともに嚥下造影検査所見がどのように変化したかを解析することで、サルコペニア患者の口腔機能、嚥下機能を回復するためのアプローチ方法について仮説を立てることができた。この結果については、今年度中に学術大会で発表するとともに、学会雑誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画どおり経費を使用したところ、端数が生じた。 次年度使用額と平成30年度助成金を合わせて、計画通りに、測定装置や統計ソフト、電極等の購入に使用する予定である。
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