研究課題
これまでの我々の研究において、低栄養によるサルコペニアを認める患者は認めない患者と比較して、舌圧と口唇閉鎖力が有意に低下していた。さらに過去3か月の摂取量低下は舌圧、口唇閉鎖力と有意に関連していた。また、低栄養によるサルコペニアの存在は低摂食レベルの存在を調整しても舌圧と口唇閉鎖力に有意に関連していた。この研究結果により、低栄養による二次性サルコペニアにおいて、舌圧に加えて口唇閉鎖力も関係していることが示唆された。また、舌圧や口唇閉鎖力が低下することで食べにくさが出現し、摂取量の低下から低栄養によるサルコペニアを引き起こしている可能性も考えられた。さらに、施設職員にアンケート調査を行った結果、これまでに窒息経験のある施設入所者の特徴として、ほとんどがサルコペニアの疑いがあり、半数が疲労しやすい傾向にあった。平成30年度では、さらにリハビリテーション病院に入院中の65歳以上の高齢者で、脳卒中や神経筋疾患、頭頸部腫瘍の既往のない患者に対して、1ccの水を嚥下したときの舌骨上筋群の筋活動電位を測定し、嚥下内視鏡検査の結果から嚥下障害あり群となし群に分けて比較した。その結果、サルコペニアを有した嚥下障害患者はそうでない患者に比べて、嚥下運動中の舌骨上筋群の最大筋活動量が有意に増加していた。また、嚥下運動の筋活動時間においても有意に延長していた。これは、サルコペニアを有した嚥下障害患者では1ccの水分を嚥下する際に努力性に嚥下している可能性を示唆している。これらの研究結果により、サルコペニアを有した高齢者では、舌圧や口唇閉鎖力が低下することで食べにくさが出現し、舌骨上筋群の機能低下により食事中に一回の嚥下に対する努力性が増加し、疲労しやすいことが窒息リスクの増加に寄与している可能性が考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
28年度については、当初の計画にはなかったが、これまでサルコペニア患者に対して収集したデータをもとに、咀嚼機能に大きな影響を及ぼす舌の機能について分析した。その結果、サルコペニア患者では舌の機能低下があり、それが経口摂取を困難にしている可能性が示唆された。この研究論文は、国際雑誌Dysphagiaに掲載された。さらに、29年度は、舌とともに咀嚼効率に影響を及ぼす口唇閉鎖力とサルコペニア患者との関連性について調べた。その結果、口唇閉鎖力も舌圧とともにサルコペニア患者で低下しており、サルコペニア患者の咀嚼機能低下の要因になっていることが示唆された。この研究論文は、国際雑誌Clinical Interventions in Agingに掲載された。つぎに、これまでに窒息経験のある施設入所者に、サルコペニアの疑いがあるか否かを、施設職員にアンケート調査を実施した。その結果、窒息経験者の多くはサルコペニアの疑いがあり、疲労しやすい傾向にあることが考えられた。この調査結果は日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会で発表した。さらに、サルコペニア嚥下障害患者における舌骨筋群の筋活動について調査を行った結果、嚥下中に舌骨上筋群が努力的に働いていることが示唆された。この研究成果は、the 26th Annual DRS Meetingで発表した。これまでの研究成果により、サルコペニアを有した高齢者では、そうでない高齢者に比べ、舌や口唇、舌骨上筋群の筋活動が低下しており、食事中に努力が必要であり、疲労しやすいことが窒息リスクの増加に寄与している可能性が考えられた。以上のことから、当初の計画以上に進展していると考えられる。
1.回復期病院に入院中のサルコペニアを有した患者に対して、1ccの水を嚥下した時の舌骨上筋群の筋電位波形を測定する。これらの測定結果が、サルコペニアを有した患者の嚥下障害の有無についてのスクリーニング検査として利用できるか否かを検討する。この調査は昨年度から引き続き行っているものであり、今後も調査を継続し、必要な被験者数が集まり次第、論文として投稿する予定である。2.回復期病院に入院中のサルコペニアの患者の入院時の握力、舌圧、口唇閉鎖圧、咀嚼効率、嚥下造影検査所見(食物の誤嚥、窒息、咽頭残留の有無、舌骨、甲状軟骨の嚥下時の変化量、咽頭収縮率等)を測定する。そして、これらの値が栄養状態の改善とともにこれらの値がどのように変化するかを追跡調査する。この調査は昨年度から引き続き行っているものであり、今後も調査を継続し、必要な被験者数が集まり次第、論文として投稿する予定である。3.サルコペニアにより嚥下障害が生じた患者の嚥下造影検査画像を解析し、サルコペニア患者に特徴的な所見を認めた。また、サルコペニアの改善とともに嚥下造影検査所見がどのように変化したかを解析することで、サルコペニア患者の口腔機能、嚥下機能を回復するためのアプローチ方法について検討した。この結果成果については、現在、海外の学術雑誌に投稿中であり、査読結果に応じて修正作業を行っていく。
昨年度は、年度途中において、測定機器(開口力測定トレーナー)が故障したことで、予定していた計測が行えず、測定に伴う消耗品費に余りが生じた。今年度予算では、開口力測定トレーナーにおよそ25万円を当てる予定である。また、電極等の購入における物品費に約12万円、学会発表に伴う旅費に約10万円、英文校正料として約5万円を当てる予定である。
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Clinical Nutrition
巻: 38 ページ: 303-309
10.1016/j.clnu.2018.01.016
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 506 ページ: 290-297
10.1016/j.bbrc.2018.10.063