研究課題/領域番号 |
16K19268
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 亜紀 東京大学, 医学部附属病院, 登録研究員 (00567448)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オメガ3脂肪酸 / 早産 / EPA / 18-HEPE / レゾルビン |
研究実績の概要 |
本研究では、オメガ3脂肪酸(EPA)とその代謝物(RvE3、18-HEPE)による早産抑制効果について、安全性を確認しながら段階的にヒト早産治療薬としての臨床応用を展開することを目的としている。 これまでの研究で、動物実験において、オメガ3脂肪酸の早産予防効果を示した。大腸菌リポ多糖(LPS)の局注によって誘発されるマウスの炎症性早産に対して、体内の細胞でオメガ3脂肪酸リッチのfat-1トランスジェニックマウスにおいては、抵抗性を持つことを示した。さらに、その妊娠子宮の包括的脂質メタボローム解析により、EPA由来の代謝物である18-HEPEの有意な上昇を見出し、その下流の活性代謝物であるレゾルビンE3(RvE3)の直接投与により早産が抑制されることも証明した。それらの研究の続きとして、LPS刺激後の妊娠子宮、胎盤について、RvE3投与群とコントロール群で炎症性サイトカイン遺伝子発現を比較し、TNF-α、IL-6、MIP-2などの発現がRvE3群で有意に低下していることを示し、RvE3の抗炎症効果が示された。また、18-HEPEをLPS局注の24時間前に投与することで有意に早産率が低下することも示した。RvE3の1000倍の量が必要であったが、RvE3が不安定であるのに対し、18-HEPEは安定した化合物であるため臨床応用への可能性が高いと考えられた。また、EPA、18-HEPE、RvE3と下流の代謝物になるにつれて、効果発現までの時間は短く、かつ必要投与量も少なくなるということが明らかとなった。EPAとその代謝物を臨床応用する際には、予防的使用方法と治療的使用方法に使い分けることもできると考える。 臨床研究では、早産ハイリスク妊婦に対するEPA内服のランダム化比較試験を計画していたが、単群探索研究へ変更することとなった。そのため、当初の予定より遅れているが、今後実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画段階では、臨床研究として早産ハイリスク妊婦に対するEPA内服のランダム化比較試験を実施する予定であった。海外での既報はいくつか認めており、EPAの妊娠中の内服の安全性も実臨床において確認されている。早産ハイリスク集団を子宮頸管長短縮を認める妊婦とした。「子宮頸管長短縮妊婦に対するオメガ3脂肪酸内服の早産予防効果に関する、無作為化二重盲検プラセボ対照比較研究」の実施に向け、プロトコール作成、薬品(プラセボと実薬)購入、臨床研究保険等の手配を進めてきたが、臨床研究支援センターとの度重なる協議の結果、適切な対象集団、用量の設定、安全性の確認の点で先行研究が不十分であるという判断になり、今回はランダム化比較試験を行うことを断念した。そこで、先行研究としてオメガ3脂肪酸内服の単群とヒストリカルコントロールを比較する試験(単群探索研究)を行う方針に切り替えることにしたため、計画を作り直しており、当初の計画から遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたランダム化比較試験を行うには先行研究が不十分であるという判断になり、単群探索研究へ計画変更することとした。薬品、臨床研究保険、プロトコールについてはほぼ準備が整っているため、倫理申請の上、6月より登録開始の予定である。課題としては、データ管理の方法で、EDCを使用することとしているが、予算との兼ね合いで業者委託は難しく、今回の研究用にシステムを作成する予定である。 基礎研究においては、説明と同意のもと、妊婦や妊娠前女性より検体(血清、胎盤など)を採取し、脂肪酸組成の違い、脂肪酸代謝物の違いを包括的メタボローム解析を行い明らかにする。また、採取した胎盤から絨毛細胞を単離培養し、in vitroで炎症刺激して、脂肪酸代謝と炎症性サイトカイン発現、タンパク発現との相関関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床研究において、早産ハイリスク妊婦に対するEPA内服のランダム化比較試験を計画していたが、単群探索研究へ変更することとなった。そのため、当初の予定より遅れたため、当該年度に使用予定であった薬品購入費、臨床保険加入費など臨床研究へ当てる予定であった予算の執行ができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
計画変更した臨床研究(単群探索研究)を本年度に実施予定であり、薬品購入費、臨床保険加入費、データ管理費に使用予定である。 基礎研究においては、試薬購入、マウス購入、維持費に使用を予定している。
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