疾病により労働生産性が低下している状態(以下、プレゼンティーズム)という概念が、産業保健活動の目的として近年注目され、貨幣換算され、医療費や欠勤などに比べて大きな損失があることが明らかとなっている。しかし、プレゼンティーズムは個人の主観的な評価で測定され、基準概念妥当性(測定したいものが測定出来ている)の検証が不十分との指摘があることに対し、本研究は、個人の主観的な評価で測定されているプレゼンティーズムと、客観的に測定する機能の低下の関連を明らかにするために行う実験研究の予備実験を実施した。 113名の参加者を得、名質問紙調査と認知機能検査を連続して実施ししたが、すべてのデータがそろい解析対象となったものは74名であった。症状で最も多かったものは、肩こりであり、次いで目の不調、頭痛と続き、これはこれまでの報告と相違なかった。プレゼンティーズムを普段の状態と悪い状態で比較したところ、認知機能の総合点数ならびに各機能の点数は差を認めなかった。また客観的な労働生産性である処理時間も有意な差を認めなかった。 つぎに主観的なプレゼンティーズムの発生と、認知機能の低下との相関は認めなかった。また、肩こり、頭痛、目の不調の症状別にみると、肩こりは相関係数がマイナスであり、肩こりによって生産性が低下していると、認知機能が上がる結果となっていた。しかし目の不調については、有意差はないものの、相関係数も0.465 とやや高値であった。主観的なプレゼンティーズムの発生の程度と客観的な生産性の低下の程度も相関は認めなかったが、認知機能検査と客観的な生産性の低下は、症例数が少ないこともあり、有意差はないものの、相関係数0.523とやや高い値を示した。 肩こりや頭痛などの症状から発生するプレゼンティーズムの発生機序として、認知機能の低下があることを仮説としておいたが、仮説は立証されなかった。
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