法医剖検例における嗅覚系の神経病理所見について、抗リン酸化抗体α―シヌクレイン抗体(pSyn#64)および抗タウ蛋白抗体(AT8)を用いた免疫染色方法を検討した。その結果、ニチレイのヒストステイナー36Aシステムを用いることで良好な染色結果が得られた。 65歳以上の法医剖検47例の嗅球、前嗅核、梨状葉、嗅内野皮質、扁桃核、海馬について、HE染色、ガリアス染色、各免疫染色(抗リン酸化抗体α―シヌクレイン抗体および抗タウ蛋白抗体)を実施した。染色陽性反応については過去の文献を参考にガリアス染色では0~3の4段階、各免疫染色では0~4の5段階でスコア化を行った。全47例中15例の解析を行って検討してところ、左と右の前嗅核におけるタウスコアに有意な相関が認められ、また、左と右の前嗅核におけるα―シヌクレインスコアにも有意な正の相関が認めれらた。しかしながら、左嗅球と右嗅球の間における各染色スコアに正の相関は認められなかった。α―シヌクレインスコアの平均値は嗅球では2.1、前嗅核では0.7であり、有意差があった。また、前嗅核ではタウスコアの平均値(2.0)とα―シヌクレインスコアの平均値(0.7)の間に有意差が生じていた。認知症における各免疫染色のスコアは認知症でない症例のスコアよりも高い傾向を示した。今後、ガリアス染色評価、HE染色評価と免疫染色結果の相互比較や、梨状葉、嗅内野皮質、扁桃核、海馬などの各脳部位における神経変性所見の検討、不慮の事故の形態別にみた認知能評価およびその意義について更なる研究が必要である。
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