本研究のテーマである、ダイビング剖検診断における血管内気泡、肺の気腫性変化、脂肪塞栓の意義については、これまで所属研究機関において行ってきた実験・研究により一定の知見が得られていた。より正確な定量評価の基準を明らかにするためには、実験例の蓄積が必要であった。また、更なるリスク因子について検討するためにも、これまでの実験・研究により得られたデータの再分析を行い、今後実施する実験系のあり方について検討を行ってきた。 減圧障害の重要なリスク因子として、負荷する圧の大きさ(水深)、負荷時間(潜水時間)、減圧速度(浮上速度)、肥満などが指摘されていた。これまでの実験系では、肥満ラットはWister系ラットよりも減圧障害による死亡率が高く、より短い負荷時間でも死亡することが明らかとなっていた。その原因として、体脂肪の増加により体内の溶存窒素の量も増加したことが第一に考えられたが、生理学的データの分析からは、肥満に伴う血管障害なども減圧耐性を低める一因となった可能性も考えられた。従って、肥満に加えて高血圧、高脂血症などをもつ生活習慣病モデルマウスや高齢マウスを使用した実験を行うことにより、個人がもつリスク因子をより多岐にわたり評価することが可能となり、高齢ダイバーに多いダイビング事故の予防策にも繋がりうるものと期待された。 減圧障害における脂肪塞栓の意義については、麻酔方法を改良すること、肺区域ごとの脂肪塞栓の分布を評価することにより、これまでよりも詳細な検討が可能になるものと期待された。 以上のことから、減圧障害のリスク因子ならびにダイビング剖検診断における脂肪塞栓の意義について、形態学的検討を行うための新たな実験系による動物実験の準備を重ねてきた。しかし、研究代表者の持病の悪化により、当該研究に不可欠である動物実験の実施が不可能となってしまったため、科研費助成事業の廃止申請を行った。
|