複数人分のDNAが混入している「混合試料」の分析は、法医学領域における重要な課題のひとつであるが、各個人のDNA型を分離する技術的な方法は未だ確立されているとはいえない。そこで、次世代シーケンサー(NGS)を用いたミトコンドリア(mt)DNA解析を行い、検出されたDNA鎖(リード)毎の塩基配列の違いを比較することで複数人のDNA型の分離を試みた。 2名分のDNAを混合し、解析用の混合試料モデルとした。mtDNAのhypervariable region(HV)1とHV2の増幅に用いるプライマーを再設計し、増幅産物を以前より短い350 bp程度にしてNGS解析したところ、HV1・HV2ともに増幅領域全体を1本のリードで検出することができた。得られたリード上には複数の塩基多型が確認され、その組み合わせからは異なるmtDNA型のパターンが区別でき、2種のハプログループを決定することが可能であった。本法では、サンガー法では識別できない16189C個体のC連続に続く配列をreverse鎖のリードで検出できた。 また、異なるDNA量を鋳型にして検出限界を求めたところ、鋳型DNA 0.01 ngを用いた試料でも2名分の多型パターンを区別することができた。しかし、DNA 0.05 ng以下の場合にHV1のリード数が大きく減少し、ここが分析可能な限界濃度と考えられた。さらに2名のDNAの混合比を変化させた試料モデルを分析した結果、各個人と一致する配列を持つリードの数は概ね混合比を反映していた。 本法では増幅領域内でPCR産物が細分化していないため、多型の組み合わせの可能性を考慮することなくmtDNA型を決定できるという利点がある。混合試料に含まれる複数人のmtDNAの由来を検討するにあたり、従来のサンガー法の結果を補いながらNGSを利用することで検査の精度を高めていくことに役立つものと考えられた。
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