研究実績の概要 |
体内時計作動薬のテイラーメイド探索のための基盤技術として, まずはリアルタイム生細胞発光モニタリングを用いた概日リズム睡眠障害のin vitroモデル系の構築を目指し, 家族性睡眠相前進症候群(FASPS)の試験管内モデル化を試みた. FASPSは, 時計遺伝子Per2の点突然変異によって起こることが示されている. さまざまなグループが試験管内モデル化を試みてきたが, 概日時計の周期短縮を試験管内で再現できた報告は存在しなかった. モデル化が困難な理由としては, 発現量の至適範囲が狭いことがかんがえられた. この困難を克服し, FASPSの試験管内モデル化を達成するため, わたしたちは次のような戦略をとった. まずPer2の無いES細胞を用意する. そして, Rosa26にPer2遺伝子とLuciferase遺伝子をゲノム編集により1コピーだけ正確にノックインする. ES細胞は時計を持っていないが, 分化誘導することで概日振動が出現することが知られているため, 培養細胞レベルでFASPSの周期短縮を検出できると考えられた. これに必要な要素技術として, 1)周期長を精密に検出できるES分化誘導系と, 2) Rosa26に1コピーだけ正確に導入できるようなPer2ノックアウトレスキュー系を開発し, FASPSのin vitro model化を試みた. 最終的に, WTとFASPSの各々2クローンのES細胞を分化誘導すると, FASPSでの周期短縮が確認された. また, この概日リズム睡眠障害試験管内モデル系には汎用性があり,さまざまな変異体の表現型を測定することができ, 昼夜逆転の発症機序の一端の解明にも寄与することができた. また, 漢方薬のスクリーニングにおいては, 概日リズム変容作用のある物質を, 生薬の分画レベルまで同定することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では単核球に対するリポフェクションによる非侵襲的な概日リズム障害のモデル化をめざしていたが, 効率が低く, 波形も綺麗なものが得られにくいことが分かってきたため, エレクトロポレーションを用いた系を検討している. また, 現在多能性幹細胞を用いたin vitro モデル系の構築に成功している. この実験系は, ヒトiPS細胞への応用も可能なため, 今後は多能性幹細胞を用いたモデル系の構築し, テイラーメイド探索へ向けた基盤技術の確立を目指していく方針である. 治療薬の探索については, 医療ビッグデータ解析から概日時計調節作用が示唆された方剤に対してスクリーニングをおこない, 生薬の分画レベルまで同定をおこなっている. 今後は成分単位で同定していく方針である.
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