統合失調症や気分障害疾患の分野においては家族の患者への感情表現のあり方が患者の病状に影響を与えることが明らかにされてきた。この家族の患者への感情表現のあり方は感情表出という概念でとらえられる。認知症疾患においては患者の病状が介護負担を通して家族にうつや健康状態の悪化をもたらすことがこれまでの研究で明らかになってきた一方で、家族の患者に対する感情表出が患者病状に与える影響は明らかにされていない。そこで、本研究では認知症患者家族の感情表出の状態およびその関連因子を調査し、さらに感情表出が認知症の進行や問題行動の発症にどのように影響を与えるのか、さらには介入によって患者家族の感情表出のあり方を変化させることで問題行動を予防し、ひいては介護者たる家族自身の負担軽減につなげることが可能であるのか調査する事を目的として行われた。 東大老年病科物忘れ外来に家族と共に通院する患者と家族の対を対象に参加を呼びかけ、認知症患者・家族の病歴、症状、生活調査、心理検査(うつ、不安、気分、QOL)と身体症状評価、感情表出評価、血液検査、睡眠評価を行い、感情表出の状況およびその関連因子の評価を行った。本研究の開始が研究体制の確立、倫理委員会からの承認を得るために遅れたため現在までの解析対象は5例に留まっている。これらの症例の解析では患者の問題行動と感情表出、家族負担度が関連している傾向がみられた。ただし、感情表出の状態および患者の認知症進行による変化や問題行動は相互に影響し合っていると考えられるため、感情表出と問題行動の間の因果関係を調査するには今後サンプル数を更に増加させ経時的に追跡するコホート研究が今後必要であると考えられる。
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