研究課題
本年度は、悪性リンパ腫患者の治療前検体、診断時のCT画像を用いて、血清トリプトファン値、血清キヌレニン値と筋肉量を測定し、その関連性を検証した。筋肉量は、第3腰椎(L3)レベルでの筋面積(腹筋、大腰筋、傍脊柱筋)を身長で2回割った骨格筋指数(L3 Skeletal muscle index:LSMI, cm2/m2)を用いて評価した。その結果、トリプトファン濃度が低いほど筋肉量も低く、キヌレニン濃度が高いほど筋肉量が低い傾向を認めた。つまり、臨床的に筋肉量の維持つまりサルコペニアの発症に、トリプトファンとキヌレニンは関与している可能性が示唆された。そこで、マウスの筋芽細胞株であるC2C12細胞を用いて、その細胞増殖、筋細胞への分化にアミノ酸の枯渇やトリプトファンの代謝産物が与える影響を検討した。これまで、トリプトファンはセロトニンの前駆物質であることから神経系への役割が主に研究されてきており、骨格筋との関連性は十分解明されておらず、本研究の結果は、トリプトファンの新たな生体内での作用を解明できる可能性がある。骨格筋に重要なアミノ酸としては、主にロイシンが認識されていることから、ロイシンとトリプトファンのC2C12細胞に与える影響の比較検討を行った。その結果、トリプトファン枯渇と骨格筋の関係の重要性が明らかとなった。そのため現在、トリプトファン枯渇の原因である、その代謝酵素であるIDOを発現しているリンパ腫細胞を用いて、C2C12細胞と共培養を行い、IDO発現と骨格筋の関係性を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どうり、臨床検体の解析およびin vitroでの実験が進んでいる。
今後は、臨床検体を用いた検討の症例数を増やしていき、より信頼性の高いデータとする。また、悪性リンパ腫のIDO発現と筋肉量の関係性を検討する。次年度以降は、トリプトファン枯渇やキヌレニンが骨格筋に影響を与えるメカニズムを細胞内シグナルなどに注目して検討する。そして、IDOノックアウトマウス、およびIDO発現リンパ腫モデルマウスを用いて、IDOとサルコペニア発症の関係性を検討する。
今年度は研究の準備段階であり、平成29年度には更なる詳細な実験を計画しており、平成28年度以上に費用が必要となると考えられ、次年度への繰り越しが生じた。
支出用途としては実験器具、試薬の購入費用、また中間結果発表のための学会参加費、旅費などを検討している。
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Open Journal of Internal Medicine
巻: 6 ページ: 128-138
10.4236/ojim.2016.64018.