我々は腫瘍組織のERCC1の発現を免疫組織化学染色で評価し、高齢者肺癌患者を対象にプラチナ製剤と第3世代抗がん剤の比較試験を計画していた。しかし、ERCC1が免疫染色では評価困難であり、ERCC1の発現を指標とした治療は治療効果を改善しないという前向き試験の結果が公表された。そのため、我々は臨床試験を実施するという計画を変更した。 前述の前向き試験以降も、ERCC1がプラチナ製剤の効果予測に有用であるとする報告は出ている。前向き試験の結果と一致しない理由として、免疫組織化学染色の評価法、抗体の特異性・染色性の変化などが挙げられている。 我々は2012年に4期非小細胞肺癌患者の診断時生検検体を用いて、ERCC1の発現とプラチナ製剤による化学療法の効果に関連があることを報告した。この際に用いた検体を免疫組織化学染色を用いて再度評価を行い、2012年の結果と比較することで、2012年から2018年の間で抗体の染色性の変化が起きているのかを確認することとした。 2012年、2018年の染色結果を比較することにより、以下のことが分かった。1)2012年の結果と同様、ERCC1低発現の患者ではプラチナ製剤による病勢制御率が高い傾向にあった。2)2012年と2018年の染色結果は相関を認めたが、相関係数は中程度であった。 検体自体の劣化による染色性の変化は否定できないものの、これらの結果から、ERCC1はプラチナ製剤の効果予測に有用である可能性はあるが、免疫組織化学染色を用いた評価には限界があり、NGSなど別の方法を用いた評価が必要であると考えられた。
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