これまで、高脂肪食摂餌により脂肪肝を誘導することでNAFLDの鉄恒常性破綻を確認している。さらに、長期間の高脂肪食負荷により肝内鉄沈着や肝線維化が進行し、脂肪肝からNASHに進展することを見出している。鉄代謝恒常性破綻の原因としてヘプシジン発現低下が関与することを指摘している。このメカニズムとしてBMPER発現亢進によるBMP-SMADシグナル抑制が関与していることを見出し、さらにヘプシジン産生に強く影響するBMP6のシグナルを類洞内皮細胞から産生されるBMPERが血清中で結合してシグナル抑制をすることを見出している。 脂肪肝マウスの肝臓における網羅的遺伝子発現解析をみていくと、正常肝マウスと比較してGdf15およびエリスロポエチン受容体の発現が亢進していた。血清中のエリスロポエチン濃度も脂肪肝マウスで上昇していることから、脂肪肝マウスでは恒常的な低酸素への曝露があり、ヘプシジン発現に影響している可能性を指摘している。 これらの結果からNAFLDの病態形成において鉄過剰症が関与し、体内の複雑な細胞関連間の一部を本研究で明らかにすることができた。 肝臓内での肝細胞と類洞内皮細胞の連関は先に示したとおりだが、NAFLDの病態形成にBMPやGdf15などTGFβスーパーファミリーの関与が指摘された。これらの分子生物学的変化は、肝内のみならず全身を循環して他臓器とのクロストークを起こすメカニズムが考えられる。近年骨格筋の脆弱性で説明されるサルコペニアが注目されており、骨格筋の変化とNAFLDの病態に注目し、今後さらなる検討を実施していく予定である。
|