本年度は、前年度に明らかにしたIP作動薬による糞便中の腸内細菌叢や短鎖脂肪酸の組成の変化が内臓知覚に及ぼす影響を検討するため、MS群IP作動薬投与中のマウスの糞便を回収し生理食塩水(NS)にて懸濁し、連日MS群に経口投与を行った。その結果、糞便移植を受けたMS群では、内臓痛覚閾値が低下せず、IP作動薬による腸内環境の変化が内臓痛覚過敏の発症を抑制した可能性が示唆された。 また、MS群IP作動薬投与、MS群NS投与、NH群IP作動薬投与、NH群NS投与の4つのグループ(G)の血清を回収し、CE-TOF MSシステムを用いてメタボローム解析を行った。約190個の代謝物質の中からNH群NS投与GとMS群NS投与Gの比較で統計学的に有意な変化のあった物質が8個同定され、MS群NS投与G-MS群IP作動薬投与G間でも16個の物質が有意な変化を認めた。その中で唯一、1-Methynicotinamide(MNA)のみがMS負荷による上昇とIP作動薬投与による低下を認め、さらにGに関係なく内臓痛覚閾値と負の相関関係を認めた。これまでにMNAと内臓知覚に関する報告が無かったため、次に申請者は、MNAが内臓知覚に及ぼす影響を確かめた。ラットに対してMNAの10日間の経口投与後に内臓痛覚閾値を測定した。MNA投与群では、NS投与群に比べ有意に内臓痛覚閾値が低下し内臓知覚過敏を惹起することが明らかとなった。 これらの結果より、MSモデルにより引き起こされる内臓知覚過敏は、IP作動薬により軽減し、腸内環境や血中代謝物質の変化などの複数のメカニズムを介した作用が考えられた。 本研究により、IP作動薬のIBSへの新規治療薬への可能性が示唆され、今後さらなる詳細なメカニズムの解明が期待される。
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