遺伝子改変マウスによって、microRNAの働きを生体でモニターできるレポーターマウスを樹立し、このマウスを用いて炎症続発性腫瘍モデルの実験を試み、大腸に慢性的な炎症を起こすことができる化学物質で炎症を引き起こしたところ、炎症を起こしている腸管上皮細胞でのmicroRNAの働きが減弱していることが確認された。このとき、腸上皮内のmicroRNAの発現量は大きくは変化していなかったため、microRNAの働きの減弱は、microRNAの「発現量」よりもむしろ「機能」が低下していることによって起きていることが示唆された 。このmicroRNAの機能減弱は、炎症に関わるサイトカイン(TNF-αやIL1などを培養細胞に添加する実験でも確認された。 次に、この原因を探索するため、炎症性刺激の存在するところでmicroRNAの機能に関わる因子の状態を検討したところ、APOBEC3Gというタンパク質の分解が、炎症性刺激によって促進されていることが示された。APOBEC3Gは、microRNAの機能が発揮される際に重要なArgonaute2と呼ばれるタンパク質を中心とした複合体にmicroRNAを導いて機能させるのに重要な因子として働いており、APOBEC3Gが炎症刺激で分解されるためにmicroRNAの機能が減弱することが示唆された。以前、腸管上皮内のmicroRNAの発現を全体的に減らした遺伝子改変マウスモデルで大腸の腫瘍ができやすくなることを報告しており、慢性炎症に伴うmicroRNAの機能低下は、ちょうどmicroRNAの発現を減らした状況と類似の状態をもたらし、それによって腫瘍形成が促進されることが示唆された。今年度は個々のmicroRNAの機能をみるためのレポーターマウスの作製に着手した。
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