研究課題/領域番号 |
16K19331
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
酒井 建 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (20727078)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝線維化 / 線維芽細胞 / 体重減少 |
研究実績の概要 |
肝臓において主に細胞外マトリックスを産生する細胞は肝星細胞が活性化した筋線維芽細胞であると考えられるが、線維芽細胞にはよい細胞表面マーカーが存在せず、細胞を分散採取する技術的障壁から肝線維化発症過程における線維芽細胞の動態、機能には不明な点が多い。申請者らはメラノコルチン4型受容体欠損(MC4R-KO)マウスに高脂肪食を負荷することにより、肥満やインスリン抵抗性を背景として非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)病変を発症するNASH動物モデルを開発した。そこで、1型コラーゲンプロモーター下にGFPを発現するマウスとMC4R-KOマウスを掛け合わせ、高脂肪食負荷によってNASHを誘導した。組織学的解析ではNASH発症に伴い、GFP陽性細胞の増加が確認されたため、NASH肝からGFP陽性コラーゲン産生細胞(線維芽細胞)をソーターにて採取した。比較対象として正常肝から密度勾配法を用いて肝星細胞を採取し、トランスクリプトーム解析を行った。 NASHは肝線維化から肝硬変・肝癌へ進展しうるため、治療法の確立は喫緊の課題である。複数の臨床研究によって体重減少の有効性が示されているが、体重減少によってNASHの病態が改善する分子機構は不明である。MC4R-KOマウスに対する20週間の高脂肪食負荷によってNASHを発症した後に、通常食に変更し12週間後に解析を行った。食餌変更により、MC4R-KOマウスの体重は緩やかに減少し、血中ALT値、肝中性脂肪含量は著明に減少した。肝臓における炎症性サイトカインやTGFβ、I型コラーゲンなどの線維化関連因子の遺伝子発現が有意に低下した。肝臓全体のヒドロキシプロリン含量は低下したが、組織学的な線維化面積の改善は限定的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コラゲナーゼ灌流法によりNASH肝からの線維芽細胞採取を行ったが、脂肪蓄積による著明な肝腫大のため組織の分散が非常に困難であった。灌流液や灌流方法の改善により安定して線維芽細胞を取得できるようになり、トランスクリプトーム解析に耐えうる検体を採取することができた。活性化線維芽細胞において既知の遺伝子群が発現増加していることは既に確認しており、今後さらに新規の活性化因子を検索していく。 体重減少による線維化改善メカニズムの解析では、食餌変更のみでなく食餌量の調節、変更期間の検討を並行して行っており、順調に検体採取が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
コラーゲン産生細胞を用いたトランスクリプトーム解析のデータから、NASHの線維芽細胞において活性化する因子やパスウェイの同定を試みる。有望な因子に関しては免疫染色や肝臓から分散採取した細胞を用いて遺伝子発現を検討し、線維芽細胞に特異的な因子であるか確認する。線維芽細胞は肝細胞あるいはマクロファージをはじめとする間質細胞と相互作用すると考えられるため、分泌因子に注目し、培養細胞を用いた添加実験を行う。 MC4R-KOマウスでは高脂肪食から通常食に食餌変更を行った際、摂取量・摂取熱量が減少せず体重減少が認められない個体も存在するため、野生型マウスとペアフィーディングを行うことで厳密に体重を減少させる。また、野生型マウスでも8-10か月の長期間高脂肪食負荷によってNASHを誘導し、食餌変更による影響を検討する。
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