研究課題
硬変肝と非硬変肝では肝硬度が異なるため、ハイドロダイナミック遺伝子導入法における最適な注入条件が異なる可能性があり、まずその検証を開始した。申請者らは血管内圧の良好なコントロールが効率的な遺伝子導入に重要と考えており、遺伝子導入にあたっては、申請者らが開発したコンピュータ制御システムを用いた。このシステムでは、リアルタイムに血管内圧をモニターし、フィードバック機構を利用して注入スピードをコントロールすることが可能である。申請者らは、ラットの非硬変肝において10秒間で30mmHgの圧上昇を得ることで安全かつ効率的な遺伝子導入が可能になること、ならびに、コンピュータ制御システムを用いることで期待する圧上昇を優れた再現性をもって実現することができることを実証済みである。硬変肝を用いて行った今回の検証においては、非硬変肝に比較してややばらつく傾向にあるものの、同様の制御プラグラムで+30mmHg/10secのDNA溶液注入が再現性を持って実現可能であった。また、用手的注入(体重の5%を1ml/sec)においても安全かつ高効率な導入が可能であった。上記のような再現性ある注入条件を担保できた場合でも、肝硬度の違いによって遺伝子導入効率が左右される可能性が考えられる。そこで、肝硬変ラットにLuciferase遺伝子を導入し解析を行った。組織学的な線維化率とLuc発現の相関を解析すると線維化率が高いほど、Luc発現が低下することが実証された。特に線維化率が20%を超えると発現高率が著名に低下していた。以上から、本年度の検証では、硬変肝に対しても非硬変肝同様の注入方法が可能であること、肝線維化率20%未満で、MMP13による治療効果が特に期待できることが示唆されたと考える。
4: 遅れている
本年度は肝硬変ラットにMMP13遺伝子を導入し、その線維化改善効果を検証することが目標であった。しかし、肝硬変ラットは健常ラットに比較して侵襲に弱く、より安全に遺伝子導入を行うための基礎データ収集が必要となった。硬変肝における安全なDNA溶液注入法を再検討し、再現性を持ってそれを実現するための基礎実験・データ解析を優先して行ったために、当初の計画よりも遅れが生じた。この基礎的検討は、本研究をすすめるための基盤となるものであり、今後の研究を円滑に進めていくためにも重要なステップであると認識している。また、肝線維化率と遺伝子発現の相関関係は、肝線維化率20%を堺としたサブグループ解析の必要性を示唆しており、今後のデータ解析における重要な結果であり、不可避のステップであった。
硬変肝に対する安全かつ効率的なハイドロダイナミック遺伝子導入を行うために、当初の計画を変更して基礎データ収集に立ち戻った検証を中心に行ってきた。この検証結果は、本研究のテーマである肝硬変の遺伝子治療を検証する上で非常に重要なステップとなるものであり、今後の研究計画を円滑にすすめることに貢献することが予想される。本年度の解析データをもとに肝硬変ラットによる遺伝子治療の検証を速やかに進めていくとともに、イヌにおいてもさらに追加基礎データを収集・解析することで、肝硬変イヌを用いた次年度以降の研究を円滑に進められるよう計画を立て直す方針である。具体的には、次年度下半期なかばでラットの検証を終了し、第4四半期にはイヌによる検証に移行することを目標に考えている。
本年度は追加の基礎データ収集に時間を要したため、予定よりも経過進行が遅延しており、必要な試薬などの購入が先延ばしとなったために、当初予定していた予算よりも実費が少なくなった。具体的には、プラスミド抽出関連試薬・ キット、ザイモグラフィーキットなどである。プラスミドはこれまでの蓄積分があったため、増幅が最小限で済んでいる。ザイモグラフィーは、線維化解析まで検証が進まなかったために、本年度は購入していない。
次年度はこれまでの解析データをもとに、肝硬変ラットに対するMMP13遺伝子治療効果の十分な検証が可能となることが予想される。これに伴い、プラスミド抽出関連試薬・ キットによる必要プラスミドの増幅やザイモグラフィーキットによる治療効果解析を行うこととなるため、これらの経費を持ち越し分から計上する予定である。また、次年度は肝硬変イヌによる検証を予定しており、開始時のイヌ購入に多額の予算が必要であるため、次年度の必要経費は予定通り計上する見込みである。
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