研究課題
一般に肝硬変ラットは健常ラットに比較して侵襲に対する忍容性に乏しい。ハイドロダイナミック遺伝子導入法による肝組織圧の一過性上昇が過剰となった場合は重篤な結果を招くこととなり、注入するDNA溶液による水分負荷も循環動態に影響与え全身状態を左右し得る。これまで申請者らはDNA溶液の注入量を減少させるため、カテーテルを用いて肝特異的もしくは肝区域特異的にDNA溶液を注入する手法を研究し改良を重ねてきたが、同時にDNA溶液の溶媒に着目し、その特性を変化させることで遺伝子導入効率を高める試みも行ってきた。イヌ実験に関連する諸費用を考えると、DNA溶液の減量はイヌ硬変肝モデルでの遺伝子導入に先んじて検討すべき課題のひとつであると考え、当初の予定を変更して、これまで以上に高いレベルでの安全性を担保するための基礎的検討を行うこととした。マウスを用いた検証の結果、弾性度の高い溶媒を用いることでハイドロダイナミック遺伝子導入法の特徴である高い遺伝子導入効率を低下させることなく、DNA溶液量を約55%まで低下させることが可能であった。同容量の生理食塩水を用いた場合と比較して1000倍程度の導入効率に相当する。新規溶媒に起因する有害事象の発生はなく、大動物にも応用可能な手法であると考えられる。昨年度から行ってきた硬変肝に対する目標組織内圧の適正化についての検討とあわせて、肝硬変モデルへのハイドロダイナミック遺伝子導入がこれまで以上に高い安全性と再現性をもって可能になったと考える。
4: 遅れている
初年度より市中病院に勤務しつつ、客員研究員として研究を行うこととなったため時間的制約が大きく、データ解析が中心となったために計画が遅れている。昨年度の肝硬変モデルに対する遺伝子導入条件を最適化の検討、本年度のDNA溶液の注入時・注入後の水分負荷の軽減の検討は肝硬変に対する遺伝子治療の基盤となる事項であり、今後の検証を効率的かつ確実に再現性を持って進めていくために重要なステップであったと考える。
これまでに得られた結果に基づき、肝硬変モデルに対する、これまで以上に安全かつ効率的な遺伝子導入が可能になったと考えられる。また、これまで客員研究員という立場であったが、2018/4より常勤である特任助教となったことで、研究に従事する時間的制約も大幅に改善された。本研究に必要なラット・イヌに関する手技はすでに習得済みであり、さらに硬変肝に対する遺伝子導入条件の検証ならびに、導入後の全身状態のフォローアップに関しては十分に検証できたと考えており、予定していた計画を随時進めていくことが可能である。
本年度はデータ解析が中心となったため、予定よりも支出額が少なくなった。次年度は時間的制約が大幅に改善されるため、遅れていた研究計画を随時進めていくことが可能である。本年度までの解析結果を利用することで、当初の計画よりも期間を短縮して研究を進めことが可能と考えており、次年度への繰越分は、主にラットとイヌの購入と飼育費用に当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
BIO Clinica
巻: 33 ページ: 34-38
Molecular Therapy: Nucleic Acids
巻: 9 ページ: 80-88
10.1016/j.omtn.2017.08.009.