研究課題/領域番号 |
16K19346
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
ZHANG YIZHOU 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 研究員 (70711117)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | BBF2H7 / ER stress response / CRISPR-CAS9 / cancer targeted therapy |
研究実績の概要 |
切除不能の進行性肝細胞癌に対してソラフェニブとプロテアソーム阻害薬との併用療法が用いられているが、プロテアソーム阻害薬による小胞体ストレスを介したアポトーシス誘導は、正常細胞にも生じることから、副作用出現等の面で課題が残る。 本研究では、肝癌細胞の増殖や抗アポトーシスに特異的な小胞体ストレス伝達経路を解析し、小胞体ストレスセンサーBBF2H7の制御を介したより特異性の高い新規肝癌治療薬の開発を試みた。BBF2H7は肝癌組織において発現が亢進しており、BBF2H7 Knockdown肝癌細胞ではアポトーシスが誘導され、細胞生存率が低下したことがわかった。既報Hedgehog signalingを介した細胞増殖への制御と異なり、今回は分子レベルの解析により、BBF2H7は転写因子AP-1の構成蛋白と競争的に結合することによってAP-1の転写活性を抑制し間接的に腫瘍抑制遺伝子p53蛋白の活性化を阻止することが解明された。また、小胞体ストレス依存的にBBF2H7が膜内切断を受けN末端断片とC末端断片に切断されることは知られているため、N末端断片とC末端断片をそれぞれ安定に発現している細胞株を構築した。CRISPR-CAS9ゲノム編集システムを用いて内因性BBF2H7をknockoutしたところ、BBF2H7 C末端断片が肝癌細胞株の増殖に不可欠な因子であることを見出した。 以上により、BBF2H7 C末端断片の新たな肝細胞癌治療ターゲットとしての可能性が示唆された。今後BBF2H7 C末端断片の機能ドメインをより詳細に解析していくことで、より特異性の高い新規治療薬の開発が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画であった「BBF2H7の細胞増殖およびストレス応答システムに及ぼす効果」の解明に関して、BBF2H7のC末端断片が細胞内でAP-1の構成蛋白と競争的に結合し(平成29年度に解析予定であった内容)、間接的に抗腫瘍遺伝子p53の機能を抑制することを明らかにした。肝癌細胞株HepG2において、BBF2H7のC末端断片の安定発現細胞株を構築し、CRISPR-CAS9ゲノム編集システムを用いて内因性BBF2H7をknockoutすると細胞増殖が抑制されるが、BBF2H7のC末端断片の発現により大幅にレスキューされることを証明した。 「新たなBBF2H7機能ドメインの解析」に関して、CRISPR-CAS9ゲノム編集システムを用いて、内因性BBF2H7のknockout細胞株の樹立を試みた。CRISPR gRNAおよびCAS9をHepG2細胞に導入し限界希釈法で細胞クローンを単離したあと、Taqman PCRでknockoutの状況を確認した。しかしknockoutされたゲノムコピー数の割合は全ゲノムの25%しかならず、現在内因性BBF2H7のknockout細胞株はまだ樹立できていない現状である。BBF2H7機能ドメインの解析が難航しているため、マウスモデルにおいてCRISPR-Cas9 plasmid によるBBF2H7発現抑制の有効性の検証も現在遅れている。 したがって、計画はやや遅れていると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
CRISPR-CAS9によるゲノム編集後大量な細胞死がおきている事から、BBF2H7の発現は肝癌細胞の生存に必要な因子であることが考えられる。したがって、BBF2H7のknockout細胞株の樹立も困難であることが想定される。今後の展開として、CRISPR-CAS9のかわりにsiRNAで内因性BBF2H7の発現を抑制する。また、BBF2H7 C末端断片の5’側21塩基ずつ欠損するプラスミドをクロニーングする。構築できたプラスミドと上記のsiRNAをHepG2細胞に導入し、細胞増殖が回復しないBBF2H7 C末端断片欠損コンストラクトを確認することで、細胞増殖にかかわるBBF2H7機能ドメインを同定する その後、同定されたBBF2H7機能ドメインをターゲットするCRISPR-CAS9 plasmidを設計し、培養細胞および担癌マウスにおいてその有用性を確認する。CRISPR-CAS9 plasmidを担がんマウスへ投与後、腫瘍組織およびマウス各臓器を摘出し、腫瘍の成長や各臓器の組織学的、生理学的な影響を評価する。BBF2H7機能ドメインと結合する蛋白(AP-1)は既に解明ており、担癌マウスにCRISPR-CAS9 plasmidを投与後、腫瘍組織においてAP-1の機能改変がin vitroでの結果と一致するかを検証する。さらに腫瘍及びマウス各臓器から総 mRNA を抽出し、次世代シーケンサーを用いてCRISPRのゲノム編集率(著効率)、Off-targetおよびゲノム変異率を分析する。ヒトとマウスのコンセンサス配列が編集され重篤な副作用が生じた場合、Off-targetなどの状況を評価しguide RNA配列または編集方法を変更する。担癌マウスへの投与に関しては、これまで報告されたCRISPR-Cas9のIn vivo実験を参考しながら、最適化に向けて条件をいくつか設定して検討後、至適条件を決定する。
|