研究課題/領域番号 |
16K19353
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
梅沢 翔太郎 横浜市立大学, 医学研究科, 客員研究員 (90737678)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 大腸発がん |
研究実績の概要 |
近年,FISH,定量的PCR法,16S rRNA配列をターゲットにしたプローブやプライマーによって,腸内細菌プロファイルが解明されるようになった.腸内細菌の中でも,臨床の疫学研究からFusobacterium nucleatum(以下Fn)感染による大腸癌との関連性が報告されている.一方,Fnはヒト口腔内の常在菌として最も多く検出される菌の一つである.しかし,口腔内と大腸癌から検出されるFnの相関性や由来についての検討はまだされていない. これまでに60例の大腸癌患者の唾液,癌部及び正常粘膜から検体を採取した.次世代シークエンサーを用いて細菌の系統分類別に菌叢の解析を行った.次に,大腸癌と正常粘膜で相対存在率に差のある群を比較した.さらにそれぞれの部位におけるFusobacterium属の存在割合を種レベルで比較した.Fusobacteriumの相対存在率は癌部で8.9%,非癌部で3.3%と,癌部で有意に高かった(p<0.05).検出されたFusobacterium属をさらに種レベルで比較するとFnの検出率は唾液で96%,大腸癌で93%だった.唾液,大腸癌ともにFnが検出される症例においては75%の相同性を認める結果が得られた.Fnはもともと口腔内の常在菌として広く認められるが大腸内には少ない菌である。臨床研究の結果からは大腸癌に感染するFnは口腔内に由来する可能性が高いことが示唆された。 また、我々は採取した検体からFnの単離培養に成功した。発癌物質であるアゾキシメタンを用いて大腸癌発癌モデルマウス20匹をを作成し、単離培養を行ったFnを尾静脈からの注射により投与し感染実験を行った。一部が肺塞栓や敗血症の合併により死亡しました。12匹を解剖したところ、4匹に大腸ポリープができていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り60例の大腸癌患者の唾液,癌部及び正常粘膜から検体を採取できている. これらの検体を用いて癌部で8.9%,非癌部で3.3%と,癌部で有意にFusobacteriumの検出率が高いことが証明できた(p<0.05).Fnが検出された症例からの検体については培養を行い,口腔内と大腸癌の分離株の相同性について検討を行うことができ75%の相同性を認める結果が得られた. 基礎部分については、発癌物質であるアゾキシメタンを用いて大腸癌発癌モデルマウス20匹をを作成し、臨床検体から採取したFnを培養し尾静脈からの注射による感染実験を行うことができた.Fn感染の大腸発がんモデルマウスを作成することができた. 上記の進展状況より、おおむね順調とした.
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今後の研究の推進方策 |
基礎実験については、手技に工夫を加えさらに大腸発癌モデルマウスを作成しFnが大腸発癌に与える影響を検討する。さらに作成した大腸腫瘍のPCRを行い、Fnが大腸腫瘍に感染していることを確認していく. 臨床研究パートにおいては、大腸癌患者からの癌部、大腸正常粘膜、唾液の検体採取をさらに進める.大腸正常粘膜,大腸ポリープ(良性)における定量PCRでのFnの検出率の検討を行う. これらの研究成果を臨床に還元する方法として新たな研究を計画している。具体的には、Fnによる大腸発癌の促進作用を抑制することを目的として、歯周病患者を対象に口腔ケアの前後でのFnの菌量を口腔内と大腸腫瘍内で比較する研究を進める。口腔ケアにより口腔内や大腸腫瘍内のFnの発現量が減少することが証明できれば歯周病治療による大腸癌の予防という新たな予防法の開発が可能となると考える.
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