上皮細胞の胃型・腸型発現の変化は幹細胞レベルでの胃型・腸型の変化によってもたらされると考えられ、幹細胞nicheとしての筋線維芽細胞の組織特異性を明らかにする意義は大きい。本研究課題において消化管上皮の組織特異性に関与する因子について、特に消化管上皮間質の筋線維芽細胞の機能に着目し、研究を進めた。マウス胃・腸上皮の間質筋線維芽細胞株を樹立し、Notchシグナル、Sonic Hedgehogシグナルなどに関連する因子の発現が異なることが示唆され、消化管筋線維芽細胞にも組織特異性が存在する可能性を示した。それらが幹細胞機能維持・腸管上皮の組織特異性に関連していることが示唆された。 これらをもとに、消化管3次元培養システム内で生体内の環境に近似した形での動的な機能解析を今後も継続し、胃型・腸型腺管の組織恒常性維持機構に関する新たな知見が得られるものと考えている。 癌細胞における胃・腸粘液形質の表現型の相違と浸潤への影響について、臨床検体も併せて検討を行った。とくに大腸側方発育型腫瘍において、MUC5AC、MUC6、CD10などの異所性胃型・腸型粘液形質発現や、幹細胞マーカーとしてのSOX2、内分泌細胞分化としてのChromogranin A発現が、腫瘍の肉眼型亜分類毎に異なることを明らかにし、これらは早期大腸側方発育型腫瘍における悪性化・浸潤を予測するマーカーになり得るものである。 癌幹細胞の胃型・腸型発現の制御機構には類似点が多いと予想され、本研究の結果は正常組織のみならず、癌細胞における胃型・腸型発現の制御による新たな治療戦略の礎になるものと考えられる。
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