研究実績の概要 |
肝星細胞の活性化は肝線維化と密接な関係にあり、抗線維化治療の標的として注目されている。本研究では前年度に引き続き、肝星細胞活性化に対する胆汁酸の影響についてヒト初代培養星細胞(HHSteC)を用いて検討した。 HHSteCに主要胆汁酸5種類を添加して培養したところ、HHSteCはリトコール酸(LCA)添加のみでスフェロイド様の形態変化を示し、定量的PCRでAlpha-Smooth muscle actin(aSMA)の発現減弱、Peroxisome proliferator-activated receptor g(PPARg)の発現増強を認めた。HHSteCにVDR, FXR, TGR5, PXRのアゴニストである1.25-(OH)2ビタミンD, FXR作動薬(Obeticholic acid, GW4064), タウロリトコール酸, リファンピシンを添加し、HHSteCのaSMA遺伝子発現を定量的PCRで確認したが、LCA添加時と同様の変化を認めるものがなく、LCA添加時にもこれらの受容体のターゲット遺伝子の発現変化が明らかではなかったことから、LCA添加時にHHSteCのaSMA遺伝子発現が減弱するメカニズムには新たな経路が関与していることが示唆された。 そこでHHSteCでLCA添加時にaSMAの遺伝子発現が減弱する分子機序を解析することにした。HHSteCにLCA 100uMを添加し、5,20,60分培養後のシグナル伝達に関わる蛋白リン酸化に関してWestern blottingで確認した。LKB-1, AMPK, AKT及びMAPKファミリーに属するERK1/2, JNK1/2, p38は5,20分でリン酸化を認めた。しかしながらcRaf, FAK, YAPはいずれの時間帯でも変化を認めなかった。現在、活性化したシグナルと遺伝子発現や形態変化との関連を解析している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究からLCAの添加時にHHSteCの細胞接着間の結合が変化することが示唆された。特にLKB-1やAMPKなどはカドヘリンやインテグリンといった結合タンパク質のシグナルと関係しており、今後、定量的PCRでそれらのmRNA発現量を確認し、Western blottingでたんぱく質の発現量を確認して、HHSteCに発現する分子種を同定する。また、siRNAノックダウン法を用いて、LCAの作用にその結合たんぱく質が寄与しているか否かを検討する。本研究ではLKB-1やAMPK 以外にもMAPKファミリーに属するERK1/2, JNK1/2, p38の蛋白リン酸化が確認されており、これらに関してもLCA作用との関連性について調べる。また、MAPKファミリーはインテグリンシグナルと深く関与しており、aSMAやPPARgの発現制御とインテグリンシグナルについて詳細に調べる。 また同定されたたんぱく質の活性化物質(阻害物質)を線維化動物モデルに投与して線維化が増悪(もしくは改善)することを確認する。更に肝硬変患者の組織標本において同定たんぱく質の発現を免疫染色で確認する。また血清肝胆道系酵素、血小板、アルブミンや線維化マーカーであるⅣ型コラーゲン7S、M2BP糖鎖修飾異性体を測定し、同定された蛋白の発現量との相関関係をみる。
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