研究課題/領域番号 |
16K19369
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
中野 泰博 東海大学, 医学部, 特定研究員 (80755439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / Notch / Notchリガンド / Jag1 / Notch受容体 / 肝線維化 / 肝再生 |
研究実績の概要 |
近年のDAA製剤の開発は、ほぼ100%に近い症例でC型肝炎ウイルスの排除を可能にした。しかしながら、抗ウイルス治療が奏功した後の肝発癌が新たな問題となっており、従前にも増して肝線維化と再生・発癌の病態連携の解明が重要となっている。 肝細胞癌に対するNotchシグナルは、Notchシグナル過剰発現マウスを用いた解析により、発生や進展に促進的に作用することが多数報告されてきた。一方で、Notch関連因子欠失マウスを用いた報告がないことから、肝細胞癌に関わるNotchリガンド/受容体が複数のそれぞれが作用していることが示唆される。どのNotchリガンドと受容体がどのように機能しているかを明らかにすることは、肝細胞癌の新たな治療法を提起すると強く示唆される。 申請者はこれまでに、主要なNotch受容体のNotch1またはNotch2と、NotchリガンドであるJagged1 (Jag1)を、それぞれの遺伝子を薬剤を投与することによって、欠失させるマウスを作製した。これらのマウスと対照の野生型マウスに対して、3週齢でdiethylnitrosamine (DEN)を腹腔内に単回投与した後、8週齢でJagged1あるいはNotch1遺伝子、Notch2遺伝子の欠損を誘導し、46週齢で肝組織を採取し、組織学的解析を行った。 野生型マウスにおける肝腫瘍形成率は♂71%、♀9%と性差があったのに対して、Jag1欠失マウスでは♂100%、♀83%と、雌雄ともに有意に上昇した。また、Notch1欠失マウスならびにNotch2欠失マウスについては、野生型マウスと同等であった。このことから、Jagged1の欠損がなぜ肝細胞癌の進展を促進するのかを解析している。また、Notch1およびNotch2の欠失マウスにおいては、対照マウスと腫瘍形成率が同等であったことから、Notch1とNotch2が機能を補完している可能性と、他のNotch受容体が存在・作用している可能性とが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Jag1欠失マウスと対照マウスの遺伝子発現パターンと組織学染色による詳細な解析の結果、肝細胞癌の進展に伴って、NotchリガンドのJag1の発現レベルが変化することが明らかとなった。特に、肝癌細胞の細胞増殖が活発な領域では、その発現が低下することが認められた。また、Jag1欠失マウスの腫瘍組織において、Notchシグナルの下流因子Hes1の発現が、対照マウスと同等に認められたことから、Jag1以外のNotchリガンドの存在が示唆された。現在はこのNotchリガンドを同定し、検討を進めている。 一方、DEN投与による肝細胞癌誘導では雌雄差が生じるが、Jag1欠失マウスではメスでも肝癌を発症するため、当研究の申請時においては、Jag1欠失が肝臓の「メスのオス化」を誘導していると考えた。そこで、Jag1欠失マウスと対照マウスとの、肝臓における雌雄差のある分子群を、遺伝子発現によって比較検討したが、有意な差を認めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞癌の増殖領域で作用するNotchリガンドを同定したことから、そのノックアウトマウスを作製し、肝細胞癌の腫瘍形成の有無と、同マウスの肝組織がどのように変化するのかを検討していく。 また、Jag1と結合するNotch受容体と、今回同定したリガンドと結合するNotch受容体が異なることが予想されるため、異なったNotch受容体からのNotchシグナルに質的・量的な差があるかを検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の段階では、Notchシグナルが肝細胞癌の発生に対する性差を変化させる可能性があったために、DNA microarrayを多数のサンプルで行う予定であったが、代替法で前検討したところ、その可能性が極めて低くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、肝細胞癌の悪性化に伴って発現が上昇するNotchリガンドを同定したため、その欠失マウスを作製している。このマウスに対して、肝細胞癌を誘導するための薬剤を投与した後、10か月間の飼育が必要となる。このマウス作製料および飼育料を、翌年分として請求した助成金に充てる。
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