Notchシグナルは、Notch過剰発現マウスを用いた実験により、肝細胞癌の発生や進展を促進することが示唆されてきたが、複数のNotchリガンドと受容体がどのように関わるかは不明である。本研究では、DENを投与したJag1-flox/Mx-CreマウスのJag1遺伝子を後天的に欠失させ、肝細胞癌の進展に対するNotchシグナルの作用を検討した。 DEN投与10ヶ月後の肝腫瘍発生率は、対照マウス(♂71%; ♀9%)に対してJag1欠失マウス(♂100%; ♀83%)で有意に上昇した。この両マウスの肝癌細胞にはNotch下流因子であるHes1の発現が同等に認められた。そこで、他のNotchリガンドを検討したところ、腫瘍部でDll4遺伝子の発現が増加し、Hes1遺伝子発現と正の相関を示した。対照マウスの初期癌病巣では、Jag1陽性の間葉系細胞に接する肝細胞でNotch2の核内移行とHes1の軽度発現を認める領域と、間葉系細胞はJag1陰性で、肝細胞自らがDll4を発現しNotch3の核内移行とHes1の強発現を示す領域が混在していた。また、腫瘍辺縁の増殖が活発な部位の肝癌細胞はDll4陽性・Hes1強陽性で、周囲の間葉系細胞がJag1陰性であるのに対して、中心部へ向かうにしたがって間葉系細胞がJag1を発現し、肝癌細胞のDll4・Hes1・Ki67発現は減弱した。 一方、Jag1欠失マウスの正常肝細胞ではNotch2の核内移行が消失し、Dll4の発現とNotch3の核内移行が認められた。また、野生型マウスの肝細胞にNotch2の細胞内ドメインを過剰発現させると、Notch3遺伝子の発現が相対的に減少した。 以上より、肝発癌過程では間葉系細胞由来のJag1をリガンドとしたNotch2から、肝癌細胞自身のDll4をリガンドとするNotch3へのシグナル転換が起こることが示唆された。
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