研究課題
ヒト門脈血を介した肝疾患形成には、液性因子であるLPSなどのTLR-4リガンド活性物質が主体となって解析されてきた。今回、食道静脈瘤治療時に独自の方法でヒト門脈血を直接採取し分子生物学的解析を行うことで、門脈血液内に細菌が存在することを見出し、さらに腸内細菌種と肝疾患の関連性を検討している。アルコール性肝硬変(AL)症例(N=5)と非アルコール性脂肪性硬変(NASH)症例(N=4)の静脈瘤治療時に採取した門脈血と、同一時期に採取した糞便を用いて、細菌16S rDNA ライブラリーを作成し次世代シークエンス(NGS)解析を行った。コントロールとしては、20歳代健常人の糞便NGS結果を使用した。まずは、糞便細菌叢の結果では、ALないしNASHではBacteroides門の割合が減少し、Firmicutes門の割合が増加しており、さらにProteobacteria門も増加していた。次に、同一症例の門脈血を用いたNGS解析結果では、3万リードを取得するIllumina MiSeqのデータでは一部の症例で得られた結果が細菌16S rDNAに一致せず非特異的PCR増幅物と考えられ、さらに食道静脈瘤穿刺時の口腔・食道内常在菌であるProteobacteria門が検出された。したがって、非細菌16S rDNAとProteobacteria門を除外した後に、検出された細菌16S rDNAによって門脈血液内に混入する細菌を属レベルで解析した。結果、ALでは、5例中3例が得られた3万リードの50%以上が細菌16S rDNAであり、Firmicutesが最も多く門脈内に侵入していた。NASHでは、3例中2例で細菌16S rDNAが50%以上検出され、1例はBacteroidesが最も多く検出された。ALとNASH症例ともに、門脈血細菌叢は糞便細菌叢と酷似したプロファイルを示したが、NASH症例の一部では糞便に検出されないFusobacteriaが検出された。現在、症例数を増やして更なる検討を継続している。
2: おおむね順調に進展している
サンプルの採取に関しては、想定した方法で安全に十分量の検体採取が可能であった。さらに門脈血と糞便の細菌叢プロファイルは同一ではなく、当初の予定通り肝疾患の病態進展に影響する細菌種の同定やLPSの関与など、新たな知見を得ている。次年度は上記内容を論文として発表する予定である。
当初の計画通り、次年度は門脈血ならびに同時ポイントにおける末梢静脈血を用いて、血中のエンドトキシンや炎症性サイトカインをELISAで測定し病的意義を評価する。また、門脈血清を分離しin vitro で培養細胞に添加し、インターフェロン産生量からTLR 活性能を評価する。合わせて、siRNA を用いたノックダウン実験を行い、門脈血内に存在する最も活性の高いTLR リガンドを同定する予定である。さらに、他の種々な肝疾患における病態形成に関与する腸内細菌叢および生理活性因子の解析を進める予定である。
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肝臓
巻: 59 ページ: 23-32
Anaerobe
巻: 48 ページ: 144-146
10.1016/j.anaerobe.2017.08.010.