研究課題/領域番号 |
16K19376
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
本間 雄一 産業医科大学, 医学部, 助教 (30620984)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソラフェニブ / 小胞体ストレス / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、培養肝細胞においてmultikinase阻害薬であるソラフェニブが細胞の小胞体ストレスに対する防御機構であるunfolded protein response(UPR)や中間径線維の構成成分であるケラチンのリン酸化を阻害し、プロテアソーム阻害薬との併用で肝癌細胞に対して相乗的に細胞死を誘導することを報告した。また細胞内異常蛋白の分解に重要な蛋白のユビキチン化やMallory-Denk body(MDB)様の肝細胞内封入体の形成についても、ソラフェニブは阻害することを明らかにした(Honma Y and Harada M. Exp Cell Res 2013)。他にもソラフェニブはAktの活性や、c-Jun N-terminal nase(JNK)およびp38といったstress-activated protein kinaseの活性を阻害することにより抗腫瘍効果を発揮することを報告した(Honma Y, et al. J Gastroenterol 2014.)。この機序として、ソラフェニブが異常蛋白のユビキチン化に関与するリン酸化や、UPRの誘導に重要な働きをもつ、小胞体膜上のストレスセンサーであるIRE1αやPERKのリン酸化、またPERK下流のeIF2αのリン酸化を阻害し、小胞体ストレスに対する防御機構を阻害したものと考えられた。同様にケラチンのリン酸化に関与するkinaseについてもソラフェニブは阻害すると考えられた。このように、ソラフェニブはmultikinase阻害薬であることから、従来報告されているRaf-1や受容体型tyrosine kinaseとは異なる、様々なkinase活性を阻害する可能性があり、その抗腫瘍効果や副作用に関連しているのではないかと我々は考え検討を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソラフェニブの酸化ストレスに対する防御機構であるNrf2-Keap1系への作用について、培養肝細胞にソラフェニブを付加し、Nrf2、Keap1、p62のリン酸化をそれぞれWestern blotにて検討中である。特にNrf2に関しては、活性化されて細胞質から核内にNrf2が移行するため、免疫染色での評価や、細胞質と核の蛋白を分離してWestern blotで検討しているが、ソラフェニブがNrf2の活性化に作用することが判明してきている。またプロテアソーム阻害剤により、肝細胞内にMDB類似の封入体が形成されるが、MDBの形成にはp62のリン酸化が重要と考えられる。ソラフェニブはp62のリン酸化を阻害することでも、細胞内封入体の形成を抑制する可能性が示唆されつつあり、細胞保護作用とソラフェニブの抗腫瘍効果との関連性について検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
5週齢のヌードマウス(BALB/c nu/nu)へヒト肝癌細胞株(Huh7、KYN-2)を皮下へ移植した肝癌xenograftモデルを、コントロール群、ソラフェニブ (20mg/kg)投与群、プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ(1mg/kg)投与群、mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬であるエベロリムス(5mg/kg)投与群、ソラフェニブ+ボルテゾミブ投与群、ソラフェニブ+エベロリムス投与群の6群に分け抗腫瘍作用を検討する。また、マウスの体重や血液検査での肝障害への影響を検討し、薬物毒性の評価も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
この研究は、科研費に採択される以前から行っていた研究であるため、当該年度は既存の細胞、試薬、実験器具を使用した。未使用額は次年度へ繰り越す。
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次年度使用額の使用計画 |
In vivoでの実験のため、ヌードマウスおよび飼料、マウス投与薬物の購入、および実験試薬の購入を行う予定である。
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