研究実績の概要 |
癌幹細胞(cancer stem cell)は、自己複製能と多分化能をもつ癌の源として癌の予防、診断及び治療に大きく注目が集まっている。本年度は、癌幹細胞を標的とする肝癌予防剤候補非環式レチノイドの標的遺伝子として同定されたMYCN癌遺伝子は、肝癌幹細胞の制御因子及び肝癌再発の予測マーカーであることを明らかにした。具体的に以下のような成果を上げた。1)マイクロアレイデータのメタ解析では、肝癌組織のMYCN遺伝子発現は肝癌幹細胞マーカー(AFP, EpCAM, CD133, DLK1, GPC3)及びWnt/β-cateninシグナルマーカー(β-catenin, DKK1, BAMBI, CCND1)に強い正の相関、成熟肝細胞マーカー(CYP3A4,UGT2B7)に強い負の相関が見られた。2)肝癌細胞培養系においてMYCN陽性CD133陽性の肝癌幹細胞集団を見出し、非環式レチノイドにより選択的に殺されることが見られた。3)肝癌細胞のMYCN発現をsiRNAでknockdownした系では、細胞周期の停止、アポトーシスの誘導、細胞増殖及びコロニー形成の抑制が見られ、MYCN陽性CD133陽性の肝癌幹細胞集団の特異的排除において非環式レチノイドとの協調効果が認められた。4)肝癌細胞の播種濃度により構築されたMYCN低発現培養系では、細胞増殖能の低下及び非環式レチノイドに対する抵抗性が見られた。5)肝癌根治治療を受けた患者に関するコホート研究では、肝癌組織のMYCN遺伝子発現はde novo肝癌の再発に強い正の相関が見られた。以上の結果から、MYCN癌遺伝子は肝癌幹細胞の特性維持に関与することが示唆された。肝癌幹細胞から成熟癌細胞への分化に伴う代謝リプログラミングにおいてMYCN癌遺伝子の役割に関する研究は、癌幹細胞を標的とした新たな肝癌予防標的の提案につながることが期待される。
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