研究課題
心不全における炎症性免疫細胞の浸潤は、以前より増悪因子として報告され、過剰な炎症を標的とする治療戦略が検討されている。一方で心臓マクロファージは均一の集団ではなく、一部は外的ストレスに対して恒常性維持を図る保護的作用を示す。様々な環境の変化を検知し、可塑性に富んだ反応を示すための、心臓マクロファージ特異的な分子機構が存在していると考えられ、これらを明らかにすることで心不全という恒常性破綻の病態形成の解明を目指す。組織マクロファージの組織特異的な分子機構の解明はいくつかの臓器で検討され、病的状態において組織マクロファージが実質細胞とのマルアダプティブな相互作用を起こすことが病態生理の原因と考えられている。生理的状態において心臓マクロファージが心保護的蛋白アンフィレギュリンを分泌することをこれまでに明らかにしたが、その制御機構は不明であり、病態形成における役割は分かっていない。心臓マクロファージ特異的に発現する心保護的蛋白の発現制御には、細胞特異的な転写制御機構が存在することが予想されるが、心臓組織の微小環境において心臓マクロファージのリガンドになるものは同定されていない。まずは様々な病態の心臓マクロファージを単離して網羅的発現解析を行い、心筋細胞に与える影響を解析する。続いて心臓マクロファージ特異的な転写因子への遺伝子介入を行い、心臓マクロファージの質的変化に伴う病態形成に与える影響を解析する。
2: おおむね順調に進展している
心臓マクロファージを単離して網羅的発現解析を行い、他の臓器マクロファージと比較すると、組織特異的な発現様式を示した。この過程で同定した心臓マクロファージ特異的な発現を示すAregは心保護的作用を持つことが新たに分かった。Aregは心臓においてマクロファージのみが発現し、心臓マクロファージで発現するAregをノックアウトすると心機能が低下した。これらの心臓マクロファージ特異的な発現を制御しているのは細胞特異的に発現する転写因子と考え、細胞特異的に発現する転写因子に注目することとした。それぞれマクロファージにおける発現制御に関わる転写因子として新規性が高かった。それぞれの転写因子に対してCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトするレンチウイルスを作成し、造血幹細胞に感染させた後、放射線照射マウスに注入した。心臓マクロファージ特異的な転写制御機構に関わる転写因子をノックアウトした造血幹細胞は心臓マクロファージに分化できないと考えた。心臓マクロファージを後に単離して組み込まれたレンチウイルスの配列をシーケンスすることでマスター転写因子の同定を行う。
(今後の推進方策)心臓マクロファージのマスター転写因子を同定しAregを始めとする心臓マクロファージ特異的発現を示す心保護的蛋白の制御機構を解明する。これにより心不全の病態生理に迫り、新規治療の開発に繋げる。遺伝子介入による心臓マクロファージの質的な変化により心筋実質がどのように変化するかを評価することは新しい病態生理の解明にもつながる。
今後は次世代シーケンサーを使用した発現解析やゲノムシーケンスを行う必要があり、多額の費用が予想された。これまでの予備検討で得られたデータをもとにして動物実験も本格化するため実験動物の飼育維持や介入にも費用を要す。次年度の必要経費を鑑み初年度の使用額を限定的なものとした。
上記今後の実験計画に対する予算が必要であることに加えて、これまで得られたデータをもとに今後さらなる学会発表や海外での発表、議論も予定しており旅費も含めた予算が必要と考えられた。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Nature Medicine
巻: - ページ: -
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