近年エンドセリン受容体拮抗薬などの薬物治療の進歩により肺高血圧症の予後は著しく改善しているが、依然として数多くの症例が治療抵抗性であり予後不良なままとなっている。我々はこれまで数多くの肺高血圧症例の治療に携り、その病態機構の解明に取り組んできた。特に臨床研究において、右心不全が肺高血圧症例の予後増悪因子であるとの予備的知見を確認している。中でも肺動脈圧の上昇は右室肥大を引き起こし、右心不全の原因となることから、肺高血圧症に伴う右室リモデリング機構を解明する事は臨床循環器病学において極めて重要な課題となっているものの、これまでその分子機構は明らかでは無かった。 本研究において我々はまずマウスにおける右室肥大および右心不全の病態モデルを作出することに着手した。その結果、マウス肺動脈縮窄を行うことで、安定的に右室負荷を誘導する動物モデルを確立することが出来た。興味深いことにこれら圧負荷モデルを経時的に観察した所、肝腫大が惹起されることが判った。上記病態モデルは右室負荷から右心不全が誘導される病態モデルであることが判った。 次に上記右室モデルを用いて、圧負荷右心室組織を採取し、そのミトコンドリア活性の計測を行った。対照モデルとして上行大動脈圧負荷モデルを用いて採取した圧負荷左心室組織を採取した。吸光度計を用いたミトコンドリア活性計測の結果、心室特異的なミトコンドリア活性の変化が示唆された。心室特異的なエネルギー代謝変容様式を示す知見と考えられ、今後の解析によりその分子実態の解明が期待できると考えられた。
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