研究課題/領域番号 |
16K19390
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相馬 桂 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (90755696)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低酸素 / 肺高血圧 / マクロファージ / シャント性心疾患 / 好酸球 |
研究実績の概要 |
診断技術ならびに心臓外科手術の進歩により多くの成人先天性心疾患患者の予後は改善してきたにも関わらず、肺高血圧症合併ACHD患者の予後は依然として悪いことが知られている。シャント性心疾患における肺血流増加は著しい肺血管リモデリングを引き起こすが、これまでその病態機構は明らかにされて来なかった。我々は肺血流量増加と低酸素血症を合併するマウス病態モデルを構築しこのモデルを用いた解析を行った。マウスの左肺を切除した後、8.5%酸素下での低酸素飼育を行うことにより、著しい肺血管リモデリングを呈するモデル(シャント性心疾患モデル)である。このモデルは低酸素ストレスと定量性を持った右肺動脈血流増加を背景とした、臨床上のシャント性心疾患の病態を反映した病態モデルと考えられる。 平成28年度は、このマウスモデルを用いて、肺血管周囲に浸潤するマクロファージをフローサイトメトリーを用いて経時的に解析した。特に血管平滑筋細胞の増殖期に集積するマクロファージに着目したところ、間質のM2マクロファージの早期浸潤が血管平滑筋増殖に関わること、間質マクロファージの除去により肺血管リモデリングが明らかとなった。続いて細胞集団特異的なLoss of function approachによりこのマクロファージ亜集団のシャント性心疾患モデルにおける機能的役割を検証している。 本研究では、低酸素ストレスによる炎症細胞浸潤がシャント性疾患において肺血管リモデリングを増悪させる機構の解析を通じて、炎症制御、マクロファージのM1/M2機能制御というアプローチを新たな治療法開発の一助とすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構築したシャント性心疾患モデル、および低酸素飼育のみ施行したマウス(低酸素単独)、左肺切除のみ施行したマウス(High flow単独)を用いて、肺血管周囲に浸潤するM1/M2マクロファージをフローサイトメトリーを用いて経時的に解析した。その結果、シャント性心疾患モデルマウスにおいて低酸素+High flowの負荷後早期にM2マクロファージの浸潤が一過性に増加することが明らかになった。M1マクロファージや肺胞マクロファージの浸潤増加は認めなかった。また、クロドロネートリポソーム静脈注射することにより間質のマクロファージ除去を行うと肺血管リモデリングが抑制されるという結果を得た。ただし、クロドロネートリポソーム静脈注射では間質のM1,M2マクロファージともに除去されることから、M2マクロファージ特異的な役割を明らかにするために、現在、マクロファージ特異的なM2機能欠損マウス(Lysm-HIF2αマウス)を用いたモデルマウス作成、phenotypeの評価、M1/M2マクロファージの挙動の解析を行っている。一方、本研究実施を通じて、M2マクロファージ増加のタイミングで肺血管周囲への好酸球浸潤が増加するという新しい事実をも認めており、M2マクロファージ集積の上流因子として肺血管リモデリングにおける好酸球の役割にも注目している。好酸球ノックアウトマウスであるGATAマウスおよびM2機能が欠失したSTAT6ノックアウトマウスを用いて解析を行っている。 重要な細胞亜集団を同定し、そのノックアウトマウスの作成も終了しているためおおむね順調に進展しているとの認識である。
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今後の研究の推進方策 |
HIF依存的なM2機能がマクロファージにおいて欠失しているLysm-HIF2αマウスを用いたモデルマウス作成、肺血管リモデリングや右室負荷に関わるphenotypeの評価、M1/M2マクロファージの挙動の解析を行う。同時にHIF依存的なM1機能欠失マウスにおいての解析も行う。マクロファージのM1/M2極性が肺血管リモデリング過程で果たす役割を解明した後、そのM1/M2極性を至適に調節すること、あるいはM1/M2マクロファージ特異的なケモカインレセプターの阻害薬を利用して肺血管リモデリングの軽減を図る治療法の開発を目指す。具体的にはHIF-1α阻害薬であるRX-0047(Rexahn社)やHIF活性化薬FG-2216(FibroGen)を用いHIF活性を介してM1, M2機能の調節を行う。M1, M2機能をそれぞれ至適に制御することにより、マウスモデルを用いて肺血管リモデリングを予防する最適な制御法を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
阻害薬や抗体を使用した実験に未着手でありこれら薬剤の購入をしていないため。また予定よりも少数のマウス個体でphenotypeがでたためマウスの飼育維持にかかる費用が節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主にノックアウトマウス実験を行っているため、マウスの飼育、維持に使用する。また、HIF1阻害薬やHIF活性化薬、抗体を投与してのrescue実験を予定しているためこれら薬剤の購入に使用する。また論文執筆、学会発表を行う。
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