研究課題/領域番号 |
16K19393
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
井原 健介 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (50770210)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生物学的ペースメーカ / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
CRISPR/Cas9を用いたin vivo ゲノム編集を達成するために、最初に心筋への遺伝子導入法を検討した。心筋直接注射時の非ウイルス性遺伝子導入法に用いる導入試薬・使用条件をルシフェラーゼ発現ベクターを用いて検討したところ、本研究においては導入試薬を用いないDNA単体での注射が最も遺伝子導入効率が良好であった。 次にKcnj2遺伝子に対するCRISPRを設計しin vitroで活性評価後に、そのCRISPR発現ベクターを用いて心筋直接注射を行ったところ、Kcnj2遺伝子のin vivoノックアウト、および導入部位局所でのペースメーカ活動発現に成功した。しかし、この方法では2週間後の短期成績で40%の表現型しか得られず、また長期成績(6カ月)ではペースメーカ活動は消失し、全く見られなかった。 原因としては遺伝子導入細胞数が極めて乏しい上に、注射局所部位の炎症・線維化によって遺伝子導入細胞が消失してしまうことが要因と考えられた。非ウイルス性遺伝子導入法では限界があると判断し、導入方法の根本的な見直しが必要と考え、病原性がなく免疫反応もほとんど引き起こさないと考えられているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用する方針とした。さらにAAVベクターには約4.7kbpsまでの遺伝子しか搭載できないため従来のSpCas9ではなく、SaCas9へ変更し、AAVの血清型も心筋細胞親和性の高いAAV9を選択した。 その結果、遺伝子導入効率は著明に改善し、静脈注射にて心筋細胞でのin vivoゲノム編集と、それによるKcnj2遺伝子のノックアウトを達成し、静脈注射1カ月後での心室筋の自動能発現を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初目標としていた非ウイルス性遺伝子導入による生物学的ペースメーカの作成が困難で、根本的に遺伝子導入法を変更する必要性が生じた。この点に関しては計画当初の想定内ではあったが、新規に採用したAAVベクターとそれに対応したCRISPRの最適化に想定外に時間を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
現状では高力価のAAVベクター静脈投与では100%の心室自動能発現を認めるが、検討数が少なく、大量のAAVベクター作成行いサンプル数を増やし、確実な発現を確認する。 AAVベクターを用いた方法で、高い遺伝子導入効率・ゲノム編集効率を達成しており、遺伝子導入効率が低かった当初の方法では困難であったタンパク質レベルの解析や、細胞レベルでの電気生理学的検討が可能となったと考えられ、これら生物学的ペースメーカの裏付けデータを収集する。 また心筋全体でのKcnj2遺伝子のノックアウトは催不整脈性が強く憂慮され、催不整脈性の評価とともに、AAVベクターの心筋局所投与実験も行っていく。 これら実験を短期成績とともに、長期成績に関しても並行して検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた非ウイルス性遺伝子導入法では十分な遺伝子導入効率が得られず、AAVベクターを用いた遺伝子導入へ方針転換を行った。そのために、初年度に予定していた多くのin vivo実験を次年度に行うこととなったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
初年度に作成できたAAVベクターを用いて、当初初年度に予定されたin vivo実験(光学マッピング、電気生理学的検査、免疫組織染色など)を行っていく。
|